「幸せそうに見える家族」ほど危ない

それと、約10年間の支援を続けた私個人の実感ですが「家族間殺人」の当事者となった家族の共通点という面では、一見するとみんなごく普通の、幸せそうな家族なんです。ただし“見た目は”“外見上は”という断りがつくんですが……。

普通の家族、理想の家族とは何か。改めて考えてみてください。突き詰めていけば、家族に普通も、理想もないでしょう。

――確かにそうですね。

私が支援を続けて実感するのは、実態のない理想や、普通の家族というイメージに縛られた結果、事件に発展するケースが多いということです。

阿部恭子『家族間殺人』(幻冬舎新書)

男は家族を持って一人前。女は何歳までに結婚しなければならない。子どもはこうあるべき……。そんな世間体や古い価値観が、DVや配偶者へのモラハラ、親子間や兄弟姉妹間の支配的な言動、子どもへの度を超したしつけにつながっていく。そして恐怖の蓄積、怒りの蓄積が事件の引き金になってしまう。

事件を起こすくらいなら離婚したり、家を出たりすればいいのでは、と不思議に思う人もいるでしょう。ただ、家族内で追い詰められていくうち、そうした視野や選択肢を持てなくなる。そうなる前の段階で、支援団体や、力になってくれる知人に頼るべきなのでしょうが、どうしても一歩を踏み出せない。他人に弱みを見せたくない。知人に家庭について愚痴をこぼすのは恥ずかしい……。そこで邪魔するのも世間体です。

十数年、加害者家族の支援を続けてきてそのことに気づきました。はたからは幸せそうに見えるのに、深刻な問題を抱える家族は少なくないんだな、と。(第2回に続く)

(聞き手・構成=山川徹)
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