これまでの常識を覆したmRNAのすごさ
CNBCが「人体そのものが病気を治すのに必要とされる薬を作る」「mRNAを使用して人体の細胞に指示またはコードを与え、糖尿病や心臓病からがんに至るまですべての種類の病気とたたかうために、タンパク質と抗体を作製する」とコメントしたように、製薬企業が製造した薬を口から飲むのではなく、人体の細胞に病気を治すためのタンパク質、つまり薬を作ってもらう。そのための設計図がmRNAというわけです。
また、「mRNAが、疾患ごとに一つひとつ薬物療法を定義して作成するという典型的で時間のかかる道程をたどるのではなく、一度に複数の疾患とたたかうことに集中することができる」とCNBCは述べました。意味はこうです。簡単な例で言えば、風邪にかかった時は風邪薬を飲むでしょう。一般的に、その風邪薬は、風邪という病気に対して効果を発揮する薬物療法として、製薬企業によって開発・製造されたものです。
しかし、mRNAの手法を使用すれば、風邪という一つの病状に対する薬物療法ではなく、風邪やその他の疾患へも対処するような「一度に複数の疾患とたたかう」薬物療法を開発することができる。mRNAはそういった「一度に複数の疾患とたたかう」ための設計図を細胞に届けることができる、ということです。
「われわれのワクチンは製薬業界を破壊する可能性がある」
実際、モデルナは新型コロナウイルス・ワクチンの追加接種と季節性インフルエンザ・ワクチンの接種が一回で済むワクチンの開発に着手していることを明らかにしました(ロイター 2021年9月10日)。モデルナは呼吸器感染症の原因となるウイルスや呼吸器系の疾患に対する「混合ワクチン」の開発を目指すとのことで、まさにmRNAが「一度に複数の疾患とたたかう」のです。
こうしたmRNAを使用した手法は、私たちが一般的に使っている薬とは本質的に異なっています。もしモデルナがmRNAを使用した手法を広く浸透させることができるなら、テスラが既存の自動車業界を破壊しているように、既存の製薬業界の破壊につながるかもしれません。実際、モデルナのCEOステファン・バンセル氏は「われわれはワクチン市場を完全に破壊することになる」(Bloomberg 2021年7月16日)、「われわれのワクチンは製薬業界を破壊する可能性がある」(UBP NEWSROOM 2021年4月14日)と言い切っているのです。