抗原定性検査に積極的なヨーロッパ

これに関連して、そのような誤った検査の運用が何をもたらしうるかについてもみたい。そもそも医療に用いられるあらゆる検査は、被験者の症状や接触歴および地域の流行状況と併せて用いなければ意味がない。そしてそれは、医者たるものの仕事である。まして病原体検査のように事前確率(≒有病率)が目まぐるしく変化する検査を一般人の手にゆだねることは不適切である。

諸外国では、公費による抗原定性検査のバラマキさえ行われているのだから、という理由づけがなされることもある。これは一考に値する興味深い議論である。

確かに欧州では抗原定性検査へのアクセスが非常にいい。ドイツ在住者から筆者が個人的に得た伝聞によると、ドイツでは10月末まで街角のブースで無料で検査を受けることができたらしい。また、EUが運営する学校では2日に1回学校の入り口で抗原定性検査を実施しているそうだ。そこで2回連続で陽性となった場合にはPCR検査へ回される。1回目の抗原定性検査で陽性になる子供がそれなりにいたことから2回目を実施したところ、意外にも陰性になるケースが頻出したために考えられたルールだそうだ。

失敗している海外をまねするのはやめた方が…

しかし、欧州でのこのルールは感染対策の常識からかけ離れた全くとんちんかんなルールである。感染対策として意味のあるスクリーニングを行いたいのであれば、特異度よりも感度が高い検査を最初に用いて広く陽性をひっかけてから特異度が高い検査に回すのが基本中の基本である。

抗原定性検査は感度が低いためスクリーニングで「陰性」という結果が出ても価値がない。このような間違った検査の使い方が横行している国々で、感染状況がどうなっているかは教訓的だ。2021年秋以降、欧州各国は軒並み大規模な流行に見舞われており、例えばドイツ(人口8400万人)では、連日5万人程度の新規陽性者が出ている。

欧州では、いわゆるワクチンパスポートと検査陰性証明を組み合わせたルールの下に、社会経済的活動の再開が試みられている(※)。この点につき目下の流行状況を見ると、少なくとも流行を抑えるという目的に対しては、この施策の失敗がはっきりしている。

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しかし、より重要なことは、それが決して意外な結果ではないということだ。感染対策の定石を無視した無謀な浪費でしかないことは最初から明らかだった。街角検査も、学校の入り口検査も、素人の思いつきにすぎない。そのような失敗のエビデンスがあるにもかかわらず、「海外もやっているのだから」と同様の施策を後追いするのはあまりいい策には思えない。感染対策ごっこをまねるのではなく、一定程度の感染とどう付き合うのかという本質的な問題にこそ向き合うべきである。

※BBC「Covid passes set to stay as Europe heads for winter