体重がわずか2カ月で32kg減
完全にメタボで、自分で靴下が履けないほどの肥満体だった僕に転機が訪れたのは、’16年の年末でした。歯科クリニックの経営に携わっていた関係で、ある研究論文を読んでいました。その内容に強い関心を抱いたのです。
その研究とは「4週間、歯を磨かない代わりに、旧石器時代食だけで暮らす。肉と魚、ナッツ類を食べ、小麦を中心とした穀物、イモ類、乳製品は摂らない」というものです(※1)。
※1…「The Impact of the Stone Age Diet on Gingival Conditions in the Absence of Oral Hygiene」Stefan Baumgartner
実験の結果は実に鮮やかでした。4週間もの間、歯を磨かなかったにもかかわらず、糖質を摂らなかっただけで歯茎からの出血は減少し、歯周ポケット、口腔内環境全体が改善されることがわかりました。
試しに僕も旧石器時代食を始めてみたところ、当初90kgだった体重がわずか2カ月で58kgまで減りました。この思わぬ副産物にとても驚き、その後は様々な書籍や論文を読み漁るようになっていったのです。
糖は人類にさまざまな問題をもたらした
中でも興味深かったのが、『食生活と身体の退化』(著:ウェストン・A・プライス)。この本は1930年代に歯科医師プライス博士が世界中を旅して、主に農耕文明以前の狩猟採集生活を送る先住民族の食事と虫歯の関係を調べたものです。その中で「人類は農業によって退化していった」という主張が述べられています。
これは人類学的に考えて非常に面白い考察です。人類が農業を始める前、つまり旧石器時代の人間は、米や小麦などの穀物を食べていなかった。つまり糖を摂らない肉魚中心の食生活でした。そのため、当時の人類は虫歯や歯周病に一切かかることなく、親知らずも死ぬまで残っていたそうです。
この傾向はイヌイットにも見て取れます。アザラシやカリブー(トナカイの一種)の肉や、アザラシの脂に漬けた鮭、落花生しか食べていない先住民族・イヌイットも歯医者いらずで知られています。彼らの摂る食事には虫歯の原因となる糖質がわずかしか含まれていないので、虫歯になりようがなかったのです。
しかし近代化に伴い、精製された小麦粉や甘い果物や砂糖が先進国からもたらされると、重症の虫歯だけでなく深刻な問題が“お口まわり”に起きるようになりました。アーチが締まって歯が乱杭状態になる、鼻腔が狭くなって口呼吸になる、そのほかにも歯周病や関節炎などの退化傾向――つまり「奇形」が見られるようになった、と自著でプライス博士は論じています。
これは「糖の恐怖」と言っても過言ではないはずです。