「見返してやりたいと思うたんよ」

とはいえ、スイング改造は一朝一夕にできるものではない。特にこのスイングは小さなトップだけに最初は飛距離が落ちる。新たなリズムをつかむまではショットの方向もバラバラになる。コーチがいなくなった以上、誰もが好き勝手なことが言える。「あのスイング改造は失敗だね」と口々にののしられた。しかし、シブコはめげなかった。

「私は今ではなく将来を見据えている。自分が信じたことをやり遂げるまで」

猛練習を重ねるシブコ。新しいスイングをものにするため、短いウェッジでのスイングから身につけていく。大好きなドライバーもものにできてきたこの10月、遂にスタンレーレディスでほぼ2年ぶりという優勝を成し遂げた。ウィニングパットを決めると、涙が溢れ出た。

さらに3週後の三菱電機レディスでも優勝を果たす。もはや涙はなく、満面の笑みで「スマイリング・シンデレラ」の面目躍如となった。

「見返してやりたいと思うたんよ。ああじゃこうじゃ言いよったヤツを」

シブコは生まれ育った岡山弁で言い放った。自分がやってきたことは間違いないと実証することができた。シブコ、意地の優勝だった。

写真=iStock.com/satit_srihin
※写真はイメージです

勝ちの意識を前面に出すと「村」から孤立する

女子プロの練習を見るとわかるが、若い選手の多くは仲の良い選手とともに行動し、練習も一緒に行う。そこには黄色いはしゃぐ声が聞こえ、和気藹々の楽しいムード満載である。女子高生の修学旅行や合宿遠征のような感じがある。そこには勝負師としての顔や姿はない。

毎週毎週知らないと土地に行き、美味おいしいものを食べ、楽しく戦う。それはそれで悪くはないが、彼女たちはアマチュアではないのだ。賞金稼ぎのプロである。ライバルたちとしのぎを削って優勝を目指さなければならない。

もちろん、そう思っているに違いないが、誰もが女子プロの「村」から外れたくはない。勝ちの意識を前面に出しては孤立する。本音を隠して村はずれにされないようにしているようにも見えるのだ。

しかし、熾烈な海外の試合を経験するとその意識は豹変する。仲良くプレーしましょうと思っても、実力が伴わなければすぐに蹴落とされてしまう。実力があってこそ認められる。

言葉のできない日本人であってもそれは同じだ。素晴らしいショットを毎回放てて、優勝を何度もすれば、勝手に自分の居場所ができる。以前の岡本綾子であり、今の畑岡奈沙である。