中国を中心としたアジア・オセアニアの周辺国や中東、アフリカでは被害が少なく、南北アメリカ大陸、欧州諸国で被害が大きいことがわかります。アフリカ大陸では南アフリカの被害が目立ちます。

もし、コロナウイルスがエボラ出血熱のようなどの人類も経験したことのない致死的ウイルスだったとしたら、世界中の老若男女が死亡したためこのような偏りは出なかったでしょう。これが観察された事実です。

なぜコロナ被害が国・地域で偏るのか

流行当初から私はこの偏りに注目してきました。アジアの一つである日本で被害が少ない理由は、守ってくれている“何か”があるからに違いありません。私は2つ要因を考えています。ウイルス側の要因と、ホストのわたしたち側の要因です。

まずはウイルス側の要因を見ていきましょう。

私たち日本の町医者には「コロナウイルス」は冬季に流行する弱毒ウイルスとしてなじみ深いものです。そのため、季節性コロナウイルスは注目されることなく、特別検査することも他のウイルスと鑑別診断することもなく「冬のカゼ」として対症療法薬の処方で治療してきました。

写真=iStock.com/Edwin Tan
※写真はイメージです

季節性コロナウイルスは4種類が知られていて、その流行パターンは地道に研究される対象でした(注4)

私たち日本人のほとんどは、子供の頃から季節性コロナウイルスに暴露されてきました。もともとコロナウイルスは変異しにくく、インフルエンザの10分の1程度であることをウイルス学研究者で医師の本間真二郎先生が示されています(注5)

コロナウイルスは、nsp14というウイルス自身の遺伝子修復を行う部位を持っていてあまり変化しないのです(注6)。新型コロナウイルスは、たまたま世界に拡散できるように変異したため世界流行したと考えられます。

ウイルスには、変異する部位と変異しない部位があります。季節性コロナウイルスの感染でも、ある程度の免疫を発揮したのではないかと私は推測しています。

コロナウイルスにエラーを起こすAPOBEC酵素

もう一つは、ホスト側の私たちの要因についてです。

人間は、一度入り込んだ外敵を排除する免疫システムを持っています。ワクチンはそれを利用したものです。

これまであまり知られていませんでしたが、免疫系だけでないウイルスに対抗する手段も持っています。それが、APOBEC(アポベック;apolipoprotein B mRNA editing enzyme, catalytic polypeptide-like)というヒトの細胞内にある酵素です。ウイルスが侵入すると細胞は危険信号のサイトカインを発します。サイトカインで誘導される酵素の一つです。