勝敗をめぐる一時的な熱狂を作り出すだけのメディア

敵対する相手に親和的な感情が湧くのは、フェアネスを貫き、互いに必死になって勝利を追求するプロセスでしか生まれない。複雑な心中を抱えながら競争に全力を傾けるなかで選手は充実感を覚え、それが観る者の心を揺さぶる。

写真=iStock.com/Robert Daly
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私はここにスポーツの本質があると考えている。いまはここをクローズアップする報道が少なく、速報性を優先し、勝敗ばかりを追う報道に終始している。冒頭で述べた、私が感じる「やかましさ」の原因はここにある。

スポーツ界からすれば、その発展の契機となるオリンピックはなくてはならないだろう。とくにマイナースポーツにとっては、その認知度を高め強化費を確保するためには必要不可欠である。オリンピックがなければ注目を集められないマイナースポーツの持つ現実は無視できない。

だが、いざオリンピックが終わればほとんど報じられなくなる。開催期間は競争を煽るような報道で世間の耳目を集めながら、閉幕後はまるで興味を失ったかのように報じない。

勝敗をめぐる一時的な熱狂を作り出すだけでは、競技人口の増加などの裾野を広げる継続的な発展は望めない。一部の選手たちを持ち上げ、その勝敗を中心とした報道に終始するだけではバランスを欠くのだ。

先に述べたマラソンやスケートボードのようなストーリーをもっと報じなければ、スポーツ自体がつまらないコンテンツになり下がるのは火を見るより明らかである。

安売りされる感動はもういらない

いまのメディアスポーツは、勝敗の行方を軸とした報道によってスポーツの本質を覆い隠し、「勝利至上主義」という価値観を無意識的に拡散しているように思える。森田氏が「見えない権力」と呼ぶこの刷り込みに、私もまた警鐘を鳴らしたい。なぜなら、ことさら勝者を礼賛するムードは、競争主義を助長する「勝利至上主義」を社会に波及させる恐れがあるからだ。

勝敗をクローズアップした報道に終始するメディアスポーツは、ともすれば強者と弱者の分断を肯定する思考様式を強化する。これは競争を是とする新自由主義を加速させかねない。報道する側にその自覚がないだけに恐ろしく、だからそれを受け取る側の私たちは十分に警戒しておく必要がある。弱肉強食の論理である「勝利至上主義」に染まらないよう、静かに抵抗し続けるべきだろう。

競争とはあくまでも方便であり、競い合いを通じて互いに切磋琢磨することが本来の目的である。ともすれば分断を生じさせる競争は、だから丁寧に扱わなければならない。

どうしても競争を免れないのがスポーツではあるが、実のところその本質は、勝利を目指すプロセスにおいて偶発的に出来する敵味方の区別を超えた「共感」やパフォーマンスそのものにある。これらを毀損しないために、メディアスポーツの特性を十分に理解した上でスポーツを楽しむ視点が、いま、求められている。これ以上スポーツが矮小化されるのを、私は黙って見過ごすことができない。

安売りされる感動は、もういらない。

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