かかる時間や手間が少ないほど問題の解決・処理はスムーズになる

問題解決の過程において、その中で用いられる知識をいちいち問い直すことをしない、精査しないというのは、ある意味で合目的的な態度であると言ってもいいかもしれません。

【図表4】に示すのは、認知心理学の建設を担った重要なひとり、ナイサーの挙げる面白い例です。文字の識別という知覚レベルの話ではありますが、簡単に見てみましょう。

出典=Neisser, 1967

(a)と(b)の2つの文字列があります。それぞれの文字列の中で「Z」を探してみて下さい。

(a)の方が断然楽に早く見つけられたと思います。1行の文字数は同じ6文字です。(a)と(b)では何が違うのでしょう。(a)に含まれる文字はターゲットの「Z」以外はすべて、文字の一部に曲線を含んでいます。それに対して(b)では直線ばかりでできている文字が背景に並んでいるのです。

「Z」は直線だけでできあがっている文字です。ですから、背景のある文字について調べている時に、その文字の一部にでも曲線が見つかれば、それはターゲットの「Z」ではないことになります。(a)では曲線が見つかった段階で、その文字をそれ以上探索する必要はなくなり、次の文字のチェックに進むことができます。背景の文字の探索を早く切り上げられるのです。

しかし、(b)では背景の文字に曲線部分がないのですから、曲線確認の段階で打ち切るというわけにはいきません。もっと探索を進めて、直線ばかりでできあがっているけれど、「Z」とは異なるというところまで確認しなくてはならないのです。(b)の場合には背景の文字が「Z」ではないと探索を切り上げるまでに、(a)に較べて時間がかかるのです。

当たり前ですが、解決の各過程を処理するのに時間や手間がかからなければ、問題の解決・処理はスムーズに行うことができます。これがこの簡単な実験から引き出せるひとつの意味です。

知識の細かい確認や探索は行わないのが普通の状態

日常生活でも同じことです。金銭のやりとりの際、硬貨や紙幣は他の硬貨や紙幣と区別がつきさえすればいいのです。区別がつく程度にしか注意を払われないと言っていいでしょう。支払いをするのに、金額さえ合わせられればいいのであって、細かいところまで注意する必要はまったくありません。デザインや絵柄にさして注意を払っていないのはそのためです。目的場所に向かうのに地下鉄を使ってもその駆動方式がいかなるものか、その領域に特に趣味があれば別ですが、通常は気にもしません。単なる移動手段だと見なされていますし、通常はそれで問題はないのです。

問題解決への志向が強ければ、解決に要する要素過程のチェックに手間暇を掛けない、精査しないというのは合目的的な態度だといえましょう。われわれは日常の絶えざる問題解決の中で知識を用いていますが、その知識の細かい確認や探索は行わないのが、どちらかと言えば常態なのだと言えるでしょう。したがって、各種テレビ番組で蘊蓄うんちくものが流行ったり、考えたこともないことを聞かれて答えにきゅうし「チコちゃんに叱られる」のが人気であったりするわけです。

われわれの知識は、それで間に合っているのであれば問題にはなりません。したがって、「知ってるつもり」であることが圧倒的に多いのです。