※本稿は、西林克彦『知ってるつもり 「問題発見力」を高める「知識システム」の作り方』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
「飛行機雲は航跡を示している」と多くの人が思っているが…
「知ってるつもり」。これがわれわれの持ってる知識の大部分のありようです。職業としてその領域に関係しているとか、深く興味を抱いているといったことがない限り、多くの知識は「知ってるつもり」の状態にあります。
こころみに小さな例を挙げてみましょう。「飛行機雲」とよばれるものがあります。エンジンの排気中に水ができ、それが上空の冷たい空気で凝結し飛行機の後ろに雲状になるというのは、聞いたことがあると思います。少なくとも、それに近いことは聞いたことがあるでしょう。しかし、ここで問題にしたいのは、飛行機雲の生成過程ではありません。もっと簡単なことです。
飛行機雲は飛んでいる飛行機の「飛行してきた跡だ」と言われたらどうでしょう。多くの人がうなずくだろうと思います。飛行機雲は、その飛行機が飛行してきた航跡を示しているのだと思っているでしょう。私も別に深くも考えもせず、そうだと思ってきました。
その日は上空の風が強かったのでしょう。飛行機雲がみるみるうちに押し流されていくのがわかる状態でした。飛行機は北から南に飛んでおり、飛行機雲は強い西風で東の方向に流されていました。飛行機雲は目に見えてどんどん流されているのですから、飛行機は、いま見えている飛行機雲の線をたどって飛行してきたはずがないと、気づいてしまいました。飛行機が実際に飛んできたコース(点線)と飛行機雲の関係は【図表1】のようになっているはずです。
飛行機雲に沿って飛行していたと思い込んでいましたが、そうではなく点線に沿って飛行してきたとすると、機首はどこを向いているのだろうかと気になってきました。最初は、機首は点線の方向を向いているのだと単純に考えました。しかし、あんなに強い横風が吹いているのだから、点線方向に機首を向けて飛べば、風で東の方向に流されてしまい、点線通りには飛行できません。西からの横風に少し向かう感じで飛行しなければ、点線のようには飛行できません。