機首は進行方向を向いているとは限らない
【図表2】に飛行機の機首の向きと、横風と、飛行機の実際に飛行する方向とを図示しました。飛行機は機首方向の推進力と横風の合成方向に飛行するのです。そうか、飛行機は必ずしも機首の向いている方向に飛んでいるわけではないのだなと、当たり前のことなのですが、初めてその時実感しました。そして、【図表2】を見ればわかると思いますが、面白いことに飛行機の機首は飛行機雲の延長方向を向いているのです。
【図表2】のように考えて、空中を飛んでいる時のことは了解できました。ところが、飛行場に着陸する時にはどうなっているのだろうかと気になってきました。滑走路の延長方向からまっすぐ進入してきているはずなのですが、この時横風が吹いていれば、【図表3】のように、飛行機の機首は滑走路と少し違った風上の方向を向いているはずです。
この少し斜めになった状態で滑走路の延長上から降りてくることになります。ここまでは理解したのですが、飛行機は滑走路に斜めになっているわけですから、着陸した後、変な方向に滑走することになりはしないのかと気になってきました。
どうしても気になったものですから、横風着陸の時どうやっているのかを航空関係の人に聞きました。答えはあっさりしたもので、「降りる直前に機首を滑走路の方向に直す」のだそうです。「うまいものですよ」という話でした。離着陸の際、地上をテレビ画面で見せる飛行機が時折あり、直前まで少しずれていた滑走路のセンターラインが、着陸と同時にぴたっと真ん中に来るのを何回か経験し、なるほどいろいろ細かい技術で成り立っているものだと感心した憶えがあります。
人は「知ってるつもり」になりやすい
われわれの知識は、ほとんどが「知ってるつもり」です。認知心理学や認知科学の領域で硬貨や紙幣のデザインを描いてもらうといった課題があります。日常よく目にし、使い慣れたものなのですが、特別に興味のある人は別にして、驚くほど不正確ですし、そもそも気にもしていないのが普通です。
また、ミシンを使っていろいろな作品を作れるからといって、その人がミシンの基本的な構造を理解していることはまずありません。上糸の針は上下しているだけですから、何かの工夫がなければ上糸は布から抜けてしまうはずです。ミシンには、普通の縫い物には存在しない下糸があります。布の下まで持っていかれた上糸は、針が戻っても布の下でカムに引っ掛けられてループを作っています。この上糸のループにボビンをくぐらせ下糸を通しているのです。この下糸のおかげで上糸は抜けないのです。ミシンはこんな複雑な仕組みになっているのです。