ここで農業が浮上する。葉っぴーFarmの小松菜は地元にもファンが多く、「おいしい」と声をかけてもらうことも少なくない。ダルマの子どもが通う小学校の給食にも使われていて、こだわりの安心安全、おいしい野菜を子どもたちに食べてもらうことも、嬉しいことだった。さらに、近隣の住民と協力してやる用水路の草むしりや掃除など一般的には面倒な作業も、ダルマにとっては交流が深まる楽しい時間だった。

「農業を通して、いろいろな人と交流できる機会を与えてくれるのが、私にとって一番楽しいことですね。荒木さんからいろいろなことを教えてもらって、これならできるなという自信が出てきたので、2回目に誘われた時は、やりますよ、と言いました。やるしかないと思いましたね」

写真提供=ダルマさん
葉っぴーFarmのビニールハウス

1500万円を投じて加工場を新設

当時、富山県では親族以外の第三者として外国人が農地を受け継ぐのは初めてのことだった。そのため、手続きに手間取ったところもあったが、ダルマは2015年から2年間、荒木さんのもとで研修生として本格的に農業を学び、2017年に会社と8人の従業員を引き継いだ。

ダルマは荒木さんのサポートを得ながら、事業を進化させてきた。2020年には、射水市に本社を置き、北陸を地盤とするスーパー、アルビスと直接取引をスタート。小松菜の収穫量が少なくなる冬にもスタッフの仕事を作るために、ネギの栽培も始めた。こちらも好評で、5反(約5000平方メートル)で始めたところ、2021年には1町(約1万平方メートル)に拡大する。

こういった取り組みのなかでも大きな変化のひとつは、小松菜の加工場で加工品の製造を始めたことだろう。葉っぴーFarmでは、一般的な小松菜の生産者よりもロスが多く出る。それは荒木さんの時代から変わらず農薬を農水省基準の3分の1まで減らしているからだ。

ハウスの中では小松菜が栽培されている(筆者撮影)

「自分が食べておいしい、安全だよと言えるものだけを売るのが生産者の役割だと思うんです。もちろん数字も見なきゃいけないけど、安心安全が一番だということ」

ロスを少しでも減らすため、2020年6月、各種補助金と自己資金を合わせて1500万円弱を投じて加工場を作った。

「安くて良いものを消費者に届けようと思ったら、自分で生産、加工、販売した方がコストが安いんですよね。作品を一枚描き始めたらスタートからエンドまで自分の手で完成させたいという私の性格ですから、食べ物の栽培から消費までのルートを完成させたいと思っています」