「火星移住」を本気で目指すトップの理念

日本と米国ではベンチャー企業に対する考え方や社会経済環境が異なるとはいえ、日本からスペースXのような会社が生まれるためには、いくつか必要なものがある。まず「リーダーが明確なビジョンを持っている」ことだ。マスク氏は、いずれ人類は地球に住めなくなり、火星に移住せざるを得ないと考えている。そのためにも、何が何でも、宇宙へ行くロケット代を安くしなくてはいけない。それが原動力になっている。

スペースX詣での経験がある日本企業の幹部は、マスク氏から「火星で人が暮らせるようにすることが目的で、それを実現するための会社がスペースX」と聞かされた。「夢みたいなことを言う」と思ったが、「メーカーとしての理念がすごくシンプルで、経営トップから現場の社員まで理念を共有している。外からは無謀と思えることに取り組み、実現させる力になっている」と見る。

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では、日本企業のビジョンはどうか。これまでの日本の宇宙開発は、政治家や官僚が政策を作り、それを宇宙機関「JAXA」が担い、企業に製造を発注する、という仕組みになってきた。ビジョンというよりも、注文に基づいた仕事という要素が強い。

「技術至上主義」を捨てる

スペースXの再使用ロケットの後を追い、日本政府も2030年頃に再使用機を25億円程度で打ち上げる計画に乗り出した。40年代には5億円ほどで別の再使用機を打ち上げる計画もあわせ持つ。文部科学省が来年度予算に研究開発費を要求した。すでに実用化させたスペースXを思うと、かなり周回遅れだが、それでも日本だけが取り残されるわけにはいかないという判断なのだろう。だが、なぜそれが必要なのか、それによって何を目指しているのか。誰もビジョンを明確に語らないので、国民には何のために開発するのかが伝わらない。

2つ目は、「技術至上主義」から発想を切り替えることだ。日本は、衛星にしろロケットにしろ、常に新技術や先端技術を追い求める。その例が大型ロケットのエンジンだ。初の国産大型ロケット「H2」は、米国のスペースシャトルと同じ方式のエンジンを新たに開発した。しかし開発にてこずり、初打ち上げの時期は遅れに遅れ、完成後も「乗用車にF1エンジンを搭載するようなもの」と揶揄やゆされた。