日本は「成功率」や「オンタイム率」では世界有数だが…

イーロン・マスク氏(50)が率いる米国の宇宙企業「スペースX」が、めきめきと存在感を増している。独自に開発したロケットで、米政府や軍の衛星を打ち上げたり、9月には3日間の宇宙旅行を成功させたりするなど、創業から約20年で数々の「民間初」の成果を上げた。

長年にわたって宇宙開発は国家プロジェクトとして進められてきたが、今やスペースXをはじめとする民間企業が活躍する時代だ。日本は、初めて衛星を打ち上げてから50年以上にわたって宇宙開発を進め、ロケットの「成功率」や、予定時間通りに打ち上げる「オンタイム率」の高さを世界に誇る。だが、「スペースX」のような会社が生まれてこないのは、なぜなのか。

米国の宇宙ベンチャー「スペースX」の名前が日本の宇宙関係者の間で話題になり始めたのは、2010年代に入ってから。ロケット「ファルコン9」と宇宙船を軌道に乗せたり、国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキングに成功したりするなど、民間企業として初の成果で、存在感を発揮し始めていた。

民間人のみの地球軌道旅行から帰還したジャレッド・アイザックマン船長(中央)=2021年9月18日[ユーチューブ中継より]
写真=時事通信フォト
民間人のみの地球軌道旅行から帰還したジャレッド・アイザックマン船長(中央)=2021年9月18日[ユーチューブ中継より]

「参入できるわけがない」と冷ややかだった

スペースX登場以前は、宇宙企業と言えば、NASA(米航空宇宙局)から注文を受けて、ロケットや衛星を製造する、ボーイングやロッキード・マーティンなどの大企業のイメージだった。そこに参入を目指すスペースXは、エンジンの開発や打ち上げ実験で失敗を繰り返し、ドン・キホーテのような存在と見られていた。日本の宇宙関係者も「参入できるわけがない」と冷ややかだった。

ところが、あれよあれよという間にマスク氏は実現させていく。しかも、ロケットの打ち上げ価格は日本の半分ほどという安さ。「価格破壊ロケット」の生まれる現場を知りたいと、日本の宇宙関係者たちが、次々と米カリフォルニア州のスペースX本社詣でを繰り広げる。そしてマスク氏の技術哲学や経営哲学を知り、感銘して帰ってくる。

どこに感銘するのか。まず、「現場」を重視する姿勢だ。日本の大企業の感覚だと、経営陣は本社で仕事をし、モノづくりの現場から遠くなりがちだ。しかし、スペースXは、本社と製造工場が同じ敷地内にあり、部品も社内で製造する。

経営陣、設計者、製造者が近くにいて、部品も自家製ということは、ロケットの信頼性を高めることにつながる。何か問題が起きればすぐに相談して対応できるからだ。