交際相手の本当の目的は村山家の支配
父親は、真奈美が都会で夜の仕事をしていることが嫌だった。仕事を辞めて家庭に入るという健一の提案に、胸をなで下ろしていた。翼も「二人目の兄ができた」と健一に懐いており、喜んでいた。健一はすぐに、村山家に入り浸るようになった。
「いいな、こんな広い屋敷を自由にできたら」
健一は、真奈美にいつもそう言っていた。健一の目的は、村山家の支配だった。「社長の息子」は噓であり、定職に就いた経験はなく、正体は女性に寄生して生きていた男だったのだ。
村山家を取り仕切っているのは敏子だった。夫の両親の世話をし、3人の子どもを育ててきた。家計もすべて敏子が管理しており、敏子がいなければ、村山家は回らないのだ。父親も子どもたちも健一を信じたが、敏子だけは思い通りにできなかった。
「やっぱり、お母さんは男の子が3人欲しかったんだって。真奈美のことだけは、どうしてもかわいいと思えないって悩んでたよ」
健一は、そう真奈美に噓を吹き込んだ。真奈美は酷く傷ついた。母親とうまくいかなくなったのは、そういう理由だったのだと思い込んだ。
「あたし、やっぱり望まれない子だったんだね……」
涙ぐむ真奈美を健一は抱きしめた。
「お前は俺が一生、大切にするから。あんな奴、母親と思うな」
「真奈美も翼も、お父さんの子どもじゃないんだ」
健一は、兄と父とよく晩酌をしていた。ある日、健一は大事な話があると言って、真奈美と翼を呼び出した。
「昨晩もお父さんとお兄さんと飲んでてね、お父さんが言ってたことがどうしてもひっかかって……」
いつになく神妙な面持ちの健一を、真奈美は急かした。
「何だって?」
「でも、知らないほうが……」
「話して、隠し事はなしって約束でしょ」
「ショック受けると思うけど、大丈夫?」
真奈美は頷いた。
「翼は?」
「翼も知りたいよね?」
真奈美がそう言うと、翼も頷いた。
「お父さんには絶対言うなって口止めされたんだけど、真奈美も翼も、お父さんの子どもじゃないんだ」
あまりのショックに、真奈美と翼はその場にへたり込んだ。もちろん、真っ赤な噓である。
「私たちは誰の子どもなの?」
「若い頃のお母さんは浮気癖があって、相手は行きずりの男だったみたいだよ」
「私と翼の父親も違うの?」
「そう」
「そんな……」
「お母さんに言うなよ。お父さんに口止めされてるんだから」
真奈美は怒りが込み上げていた。