SOSを発信すると「弱い人間」の烙印を押されてしまう

防大が把握している「自傷行為を行っている者」としての数は毎年ゼロ〜1人だというが、上記のように数には含まれていないが、自傷行為を行う者、心を病む者は実際にはもっと多そうだ。過呼吸を起こす学生もそれなりにいる。

松田小牧『防大女子 究極の男性組織に飛び込んだ女性たち』(ワニブックスPLUS新書)

ある者は「いつの間にか過呼吸が癖になってしまっていて、ちょっと怒られたり、運動したりしただけで出るようになってしまった」「『過呼吸は精神的なものだよね』と同じ訓練班の女子学生に言われ、自衛官としての自信を打ち砕かれた」と話す。

ある者は防大の環境についてこう批評する。

「一人でくつろいだりリフレッシュできる時間がなく、何度か精神的なバランスを崩した。限界を感じて帰療を申し出たことがあったが、その後、中隊の指導教官から冷ややかなものを感じた。

防大でSOSを発信することは『弱い人間』という烙印を押されることなんだと感じて、今後は何があっても指導教官や医務室に頼るのはやめようと思った」

ただ、「精神的につらかった」と話す者は多かった中で、特徴的なのは、誰も「誰々さんのせいでつらかった」と特定の何者かのせいにはしなかったことだ。誰しも、下級生や同期の「心を傷付けよう」という意図があるわけではない。悪意には悪意で返せるが、「幹部自衛官になるための指導」となると誰のせいにもできなくなる。

うつ病を患ったという者も、「防大教育はそのままでいい」と話す。だからこその難しさもある。コロナ禍では、ストレスも増大するようだ。

緊急事態宣言下の防大では、2カ月程度の外出禁止の措置が取られたといい、2020年11月の衆院安全委員会では自傷行為を行った者が同年1〜9月の間だけで少なくとも5名いたことが明らかになっている。

関連記事
【第1回】数日で1割が辞める…「エリート自衛官の養成所」防大を卒業した女性ライターの現場ルポ
同業界にいた女性の叫び「電通の高橋まつりさんは長時間労働に殺されたんじゃない」
「小6女子いじめ自殺」事件に向き合わなかった名物校長は、教育長に栄転した
小田急線刺傷事件、痴漢、セクハラ問題…なぜ「男だって大変」説が支持されるのか
「昔は怒ってばかりいた」そんな僧侶が教える"何があってもご機嫌でいられる"毎日の作法