水素を原料として燃やすのはもったいない
また燃料であるから、結局は燃やして使うのであり、熱機関(熱を動力に換える機関。エンジンや蒸気機関など)の効率は一般に低いことも忘れてはいけない。電気モーターは、電力→動力の効率が90%台であり、燃料電池は水素→電力の効率が約60%であるのに対し、自動車エンジンの効率は10~20%以下、最新鋭の大型火力発電でも42%程度である。
水素を原料とした燃料を燃やすのは、いずれにせよエネルギー損失が大きく、もったいない方法といえる。CO2が出ない燃料といって喜ぶのは早すぎる。これからは、エネルギー効率の高い手段を選ぶべきである。
水素を燃やすのがもったいないならば、その水素を原料として大量のエネルギーを使って合成したアンモニアを燃やすのが、さらにもったいないことは明らかである。こうなるともはや、正気の沙汰とは思えない。CO2を出さないことしか眼中にないから、そうなるのだが。
環境に優しいはずが温室効果ガスを生成する皮肉
さらに、アンモニアを燃やしたら、厄介な窒素酸化物(NOx)が発生する。
NOxは酸性雨、オゾン層破壊、光化学スモッグ、PM2.5などの原因物質であり(N2Oは温室効果ガスでもある)、大気汚染物質の中でも最も被害の影響範囲が大きく、かつ処理の難しい物質である。CO2を出さない代わりにNOxを出す……こんな本末転倒があるだろうか?(NOx自体は直接的な温室効果を持たないが、各種化学反応によって温室効果ガスを生成するので間接的温室効果ガスと呼ばれる)
ちなみに、ゴミ焼却施設や火力発電所のNOx排出抑制には、アンモニアが使われている(脱硝設備)。窒素酸化物(NOx)を処理するために大気中窒素からアンモニアを作り、それを消費する。その処理過程で窒素(N2)は大気に戻り、正味で消費されるのは水素である。何と皮肉な巡り合わせであることか。