一次エネルギーと二次エネルギー

まず最初に、エネルギー問題を考えるうえで必須の基礎知識に触れたい。

それは、エネルギーには一次と二次(またはそれ以上)の2種類があり、まったく違うものであるということ。一次エネルギーは大別して3種類あり、化石燃料(石油・石炭・天然ガスなど)と原子力、それに自然エネルギー(水力・風力・太陽光・地熱その他)である。これらは直接的なエネルギー「源」である。エネルギーの統計を見ても、供給源としては、この3種類しか出てこない。なお、現在の日本では、一次エネルギー供給量の9割近くが化石燃料であることは押さえておこう。

これに対し二次エネルギーは、一次エネルギーを加工して得られるもので、具体的には電力、石油製品(ガソリン、軽油、灯油など)、都市ガス(天然ガスまたは石炭から製造)などである。水素もこの部類に属する。

これらはすべて天然資源としては産出されず、一次エネルギーを原料として生産される「工業製品」に近い。すなわち、「一次」はエネルギー「源」であるのに対し、二次以下は「媒体(運び屋)」である点が、根本的に違う。

水素は二次エネルギーであり、決してエネルギー「源」ではないことを、最初に確認しておきたい。実は多くのマスコミ記事で、この区別ができておらず、水素をあたかもエネルギー「源」であるかのように扱うものが多数見られるが、完全なる誤解である。この区別もつかないような執筆者・論者には、エネルギー問題を議論する資格はない。

水素を何から得るのか?

その1:水蒸気改質による方法

水素は二次エネルギーなので、「何からどのようにして得るのか?」は常に本質的に重要な問題である。電力がさまざまな方法で得られるのと同様、水素も種々の方法で入手できる。

たしかに、水素はいろんなものから作ることができる(原料の多様性)。しかし現実的な選択肢としては、天然ガス(の中のメタン:炭化水素)か水(電気分解か熱分解)しかない。実際、政府の水素供給計画でも、この2種類だけが検討の対象になっている。

現在、最も安価に水素を得る方法は、天然ガス中のメタン(CH4、一般には炭化水素。石油・石炭などでも可能)を「水蒸気改質」という方法で処理するものである。化学が苦手な方は読み飛ばしても構わないが、参考までにメタンの水蒸気改質を化学反応式で書くと以下のようになる。

CH4+H2O→3H2+CO(1)
CO+H2O→H2+CO2(2)
+)CH4+2H2O→4H2+CO2(3)

これらの化学式が何を表すかというと、メタン(CH4)から水素(H2)を得る反応は(1)と(2)の2種類があり、足すと結果的に式(3)になる。すなわち1分子のメタンと2分子の水が反応し、4分子の水素と1分子のCO2が生成する。メタンを燃やした場合にも、炭素(C)はCO2に変わる。つまり、メタンを水蒸気改質して水素を製造するときには、メタンを燃やしたときと同じ量のCO2が生成する。

この例に限らず、メタンその他の炭化水素やバイオマス(木材・下水汚泥等の生物資源)など、炭素を含む物質から水素を製造する場合、含まれる炭素はほぼ必ずCO2として排出される。その理由は、炭化水素やバイオマスを形成している炭素(C)-水素(H)結合をブチ切らないと水素(H2)が作ることができないため、炭素(C)を何か強い酸化力で引きつけないといけないからである(その酸化剤は通常、酸素(O)が一般的。だから結果的に必ずCO2が出てくる)。

最近マスコミ等でよく取り上げられる、豪州からの褐炭水素、UAEからの天然ガス水素、または牛糞や下水汚泥からの水素等も全部同じだ。これらはすべて、結局はメタンガスを作り、それを水蒸気改質して水素を得ているので、原理的に同じ方式であり、製造段階でメタンを燃やすのと同量のCO2が排出されるプロセスである。

もともと水蒸気改質は、アンモニアなどの化学原料を得るための水素製造用に開発されたのであり、エネルギー媒体製造が目的ではなかった。実際、前記(1)式は吸熱反応(エネルギーを加えないと進まない反応)であり、かつ1000℃近い高温で反応させるため、たくさんの熱エネルギーが必要で、計算すると製造される水素の保有エネルギーの約半分は、製造時に消費されてしまうことがわかる(それだけCO2を排出してしまう)。つまり、元の天然ガスのエネルギーが約半分に目減りする。

製造時にCO2が発生すると「脱炭素社会」の構築には役立たないということで、発生したCO2を回収・圧縮して海底や地中深く埋めてしまうCCS(Carbon Capture and Storage)を適用することになっているが、CCSにはコストがかかり、エネルギーを消費するので、さらにCO2排出が増えることになる。本末転倒の極みである。

CCSも「脱炭素の切り札」などとマスコミでもてはやされているが、現実には、大口発生源の火力発電所でさえも実現していない。発電単価の上昇が避けられないからである。

なおマスコミ等では、天然ガスからの水素は製造時にCO2を出すので「ブラック(またはブルー)」水素、CCSを適用した場合は効率が下がるので「グレー」水素と呼び、水から作った「グリーン」水素と区別している。むろん、この色分けが後者になるほど評価は上がるのであるが……。