水素を使って何をするのか?

その1:発電する

前述でも触れたが、水素を最も効率的に使う方法は、燃料電池を使って電力生産に使うことである。

その効率は約60%にも達するので、燃やして燃料にする場合の最高効率42%程度よりずっと高い。しかし、燃料電池には設備コストがかかる。燃料電池にはいくつかの方式が考案されているが、いずれにせよ正極・負極・電解質からなる「セル」を多数重ね合わせる複雑な構造であって、また発電効率の高いものほど高温を必要とする傾向があり、ものによっては1000℃近い高温になる。

そのため生成物は液体の水ではなく、水蒸気または熱水である。大規模発電所を燃料電池で作ろうとすると、設備費の制約が大きくなる。実際、1980年代から水素と燃料電池を使って大規模発電所を作る構想は何度も検討されてきた。しかし実際には、設備費その他の制約があって実現しなかった。

もっと手っ取り早く水素を使うには、現有の火力発電設備の燃料に水素を混入させる方法がある。

マスコミの宣伝では、これにより火力発電からのCO2排出量が減るから環境にやさしいとされているが、その水素は何から来ているのか? 先にも述べたが、天然ガスから水蒸気改質で水素を作ると、保有エネルギー量が半分になり、出るCO2は燃やす場合と同じなので、それならば元の天然ガスを燃やすほうが断然トクである。

水の電気分解で作ると、先述したように、電力→水素→(燃料電池or燃焼)→電力となって、単なる電力の無駄遣いになってしまう。要するに、水素を燃やして発電燃料に使うのは、何重にもエネルギーを無駄遣いすることなのである。

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その2:燃料を作る

もう一つの水素利用ルートは、燃料を作ることである。

最も有名なのは、CO2に水素(H2)をくっつけてメタン(CH4)を作る「メタネーション」である。メタンは気体だが、もっと炭素(C)を多くすると炭化水素(Cm Hn)液体燃料ができる(注:m、nは自然数)。欧米で注目されている「e-Fuel」などがその例である。

また、空中窒素と水素を反応させてアンモニア(NH3)を作る方法もある。これらはいずれも、化学的には元の物質(CO2やN2)に水素H2)をくっつける反応(還元)なので、外からエネルギーを加えないと反応が進まない。人工的なアンモニア合成法として、工業的にはハーバー・ボッシュ法という高温高圧プロセス(数百℃・数百気圧が必要)が使われており、できたアンモニアの保有エネルギーは、原料の水素の約半分に目減りしている。

メタネーションなどは、CO2から燃料が作れる「夢の燃料製造」との触れ込みでマスコミは囃し立てているが、先述からもわかるとおり、実質は水素(H2)の消費であり、その水素を天然ガス(メタンが主成分)から作るのでは水素を消費して元のメタンに戻るだけであるし、電気分解で作った水素を使うのは、電力の無駄遣いでしかない。本当に、何をやっているのか訳がわからない。