その2:水を分解して水素を得る方法

最近、「グリーン水素」などともてはやされている水素がある。

これは水(H2O)を原料として水素を製造するため、製造過程でCO2が発生しない水素を指す。その方法は主に水の電気分解であり、中学程度の化学知識でも理解可能である。電気分解以外の方法としては、高温を用いる熱分解と、太陽光と触媒を用いて光分解する方法があるが、効率その他の問題があり、事実上は電気分解のみである。

たしかに水の電気分解で水素は作ることができる。しかし、電力は二次エネルギーであるから、これを用いて作る水素は「三次」エネルギーになる。作る過程で必ず目減りするので、必ず元の電力より高いエネルギーになってしまう。CO2が出ないからといって、喜んでばかりもいられない。

とくに、水素を最も効率的に使う方法は燃料電池を用いることであるが、その産物は電力である。つまり、元の電力を再生可能エネルギー(再エネ)から得るとしても、図式的に表すと、

再エネ電力→水素→燃料電池→電力となり、→の1段階ごとに目減りするので、これは電力の無駄遣いでしかないことがわかるだろう。

言うまでもなく、元の電力をそのまま使うのが最も効率的である。また、水の電気分解で水素を製造すると高くつくので、商業ベースで実用された例はない(石油会社などがCMで宣伝している水素は、全部、天然ガス由来)。

現実的な効率を考えると、水の電気分解(=水素の発生)と燃料電池による発電(=水素の消費)の各段階の実用的効率は60%程度なので、この2段階を経るとエネルギー効率は0.6×0.6=0.36、つまり36%に落ちてしまう。

水素の利点として③貯蔵が効く、を挙げたが、実際には水素を経由すると電力が64%も減ってしまう。蓄えたら64%も電力が減る蓄電池を使う人が、どこにいるだろうか? 電力貯蔵法としても、水素に利点はほとんどない。ムダの典型といわれる揚水発電でさえ、ロスは30%程度で済んでいるのである(水素の64%ロスよりよほどマシ)。

なお、水を原料とする水素製造法は、1970年代の石油危機以降、さまざまなものが考案されたが、反応速度や効率の面で実用化されたものはない。

太陽光を用いて水を分解するのは、人工光合成の第一段階だが、同じ太陽光から電力を得るのなら、太陽光→水素→燃料電池→電力のルートよりも、直接的に太陽電池を用いて太陽光↓電力のルートが効率的にもコスト的にも断然有利である。高温ガス炉という原子炉を用いる方法もあるが、これも水素を経由するより直接発電するほうが効率的である(高温ガス炉は現在使われている軽水炉より高くつくので、電力会社には好まれていないが、水素製造が可能との観点から見直す動きもある)。

ソーラーパネル
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