「正論」では当事者の心に届かない

私の場合は、子供の頃から繊細で、ストレスをためやすい性格でした。感情を素直に表に出せず、嫌なことを言われても我慢してしまうようなタイプです。

私にとって摂食障害は、自分の心を支えるためにやっていた依存行為でした。アルコール依存や自傷行為などと同じように、はたから見ると理解しがたいものですが、本人は一瞬でも救われるような気持ちがあるから、どんなにつらくてもやめられないのです。

例えば、ダイエットのつもりで厳しい食事制限をしていた時は、空腹感や減っていく体重、痩せていく体を通して自分をコントロールできているような高揚感があり、逆に過食症に転じた時は、日常生活のイライラやむなしさを紛らわせることができました。

このため、周りがいくら「体に良くないよ」など、正論を言って説得しようとしても、本人は受け入れられないことがほとんどです。

頭で理解して手放そうとしても、心が手放せないからです。

「痩せた幸せな人生」の願望に苦しめられる

私が高校生の時に過剰なダイエットを始めたのは、つらい状況の時でした。子供の頃から体型についてやゆされたり、悔しい思いをしたりすることが多く、何事にも自信が持てませんでした。

かわいくて性格の良い友達と比べて劣等感を抱き続け、何度恋愛をしようとしてもうまくいかない、家に居てもストレスを感じやすく、学校にも家にも、心が落ち着く居場所がありませんでした。

そんな時に出会った男性に「好きだけど、痩せてほしい」と言われた私は、徹底的に自分を変えようと思ったのです。痩せて、彼に愛されて、幸せな人生を手に入れたい……そう思っていたはずなのに、結局は摂食障害になって何年も苦しむことになりました。

提供=吉野なお
過剰なダイエットで30kg痩せていた時の吉野なおさん

このように、もし子供たちが食べることを拒否したり、摂食障害かもしれないと感じた時は、本人の中に生きづらさを感じる事情や現状を打破したい苦しみがあるかもしれないということを、念頭に置いておくことが大事だと思います。

コロナ禍の今はまさに、外出自粛や感染予防対策で生活スタイルも変わり、大人も子供も息苦しさやストレス、不安を感じている時。特に思春期の子供たちは、「自分が何者であるか」ということを周りや社会を見て探っている時期なので、緊張せず自分の気持ちを自由に表現できたり、心が落ち着くコミュニティや趣味などがより必要になるのではないでしょうか。