“上級国民”の性犯罪には大甘、被害女性の訴えに耳を貸さない
今回の中村氏の警察庁長官就任は、そうした政治家と官僚とのズブズブの癒着として大きな問題があるだけでなく、市民生活への影響が極めて大きいと精神科医である私には思える。
警察幹部が、裁判所が出した逮捕状を握りつぶすような行為が通るのであれば、地方の警察の上層部も自分たちも同じことをしていいと思いかねない。そうでなくても、性犯罪は“上級国民”の加害者に対して甘い対応をするという噂が絶えない。
例えば、慶應義塾大学在学中に「ミスター慶應」のファイナリストになったこともある男性(25)は6回もレイプ容疑で逮捕されたが、検察は6回とも不起訴にしている。男性の実家は千葉県で土木業などのグループ会社を経営し、親族は政財会との結びつきも強く、一部には「金の力でもみ消しているのではないか」との疑惑を持たれている。
一般的に不起訴になるケースは、当事者間で「示談したため」という説明がされることが多いが、示談に大金を払うという行為はまさに犯行を自ら認めていると言える。私は、示談があっても累犯者は積極的に起訴すべきだと考えている。
なぜなら、次の被害者が出る可能性が大きいからだ。
精神科医としてレイプ関連の被害者を診ることがあるが、その深刻かつ長期間の後遺症は到底看過できるものではない。コロナ感染者の中には後遺症が残るケースがあるが、レイプなどの性被害で精神科的な後遺症が残る確率は、その10倍は優にある。
一生、その場の映像が突然現れるフラッシュバックに苦しんだり、対人関係が不安定になったり、不眠に苦しんだり、まともな婚姻生活が送れなくなったり。全員とは言わないがかなりの割合で相当な苦しみに苛まれ続ける。
にもかかわらず、性犯罪者の逮捕状を握りつぶすような人間が警察のトップになってしまったのだ。
そうでなくても、日本のレイプなどの性犯罪に対する起訴率は低い。やや古い統計だが、警察が発表したデータ(平成22年)によれば、強姦事件年間951件中、起訴されたのは414件と半数にも満たない。データを細かく見ると、この年の認知件数(警察が被害届を認めた件数)は1289件で、そのうち検挙したのは1063件(検挙率は約8割)。さらにその中で、起訴するか起訴しないか決めるという対応にした案件が951件で、最終的に起訴されたのが414件だ。
要するに被害届が受理されても3分の1しか起訴されない。また、警察が被害届を受理しないケースも多いと言われており、これを含めると、レイプされたことを受け勇気を出して被害届を出しても、加害者が起訴されるのは25~30%くらいということになる。警察の判断で除外され7割以上の被害者は泣き寝入りを強いられている。