「調整弁」となった非正規雇用
なぜ日本は国際的なパターンと違う傾向になっているのでしょう。そもそも、なぜ非正規雇用や派遣労働が拡大してきたのでしょうか。
非正規雇用や派遣労働が増えた理由として、働く女性が増えてきたということはしばしば指摘されています。たしかに、出産や育児などを経て、女性が職場に復帰する際に、時間的な柔軟性がある非正規雇用を選ぶということはあるでしょう。さらに、時間的な柔軟性がある働き方を求める人も増えてきたのかもしれません。しかし、それら労働者側の変化だけでは、非正規雇用の増加の大部分は説明できないのです。
より大きな要因となっているのは、むしろ企業側の変化です。企業は社員にこれまでのような賞与や退職金などの給付や職務の充実を提供できる余裕がなくなってくると、人員の補充時に正規労働ではなく、派遣労働者を採用していったのです。
厚生労働省は、実態を把握するために企業に有期労働契約に関する調査を行っています。「平成23年有期労働契約に関する実態調査票」を見てみましょう。なぜ有期契約労働者を雇用しているのかについての理由として最も多いのは、「業務量の中長期的な変動に対応するため」で、47.7%の企業がそう答えています。それに、「人件費(賃金、福利厚生等)を低く抑えるため」「業務量の急激な変動に際して雇用調整ができるようにするため」と続きます。
実際に、企業が雇用の調整弁として非正規雇用や派遣労働を使っている側面が明らかになったのが、2008年のリーマン・ショックの時です。前述のように、2008年からは非正規雇用全体が減っています。これは、リーマン・ショックにおいて必要になった雇用調整を、企業が非正規労働の雇い止めを行った結果です。
「日本的経営」が格差の拡大を招いた
こうしてみてみると、日本での格差の広がりは、イノベーションの結果として仕事の二極化が進んだというよりも、これまでの「日本的経営」と言われるやり方を守ろうとするために、非正規雇用を導入してきた結果だと言えそうです。
1990年代後半から2000年代にかけて、一部の経営者から「長期的な雇用慣行を特徴とする日本的経営を守るべき」という力強い声が聞こえてきました。短期的な収益よりも、雇用を守り、これまで強みを発揮してきた日本的経営を持続させることが重要であるという主張です。