ここで子どもが社会人生活が落ち着いてきたので、親元を離れて独立したらどうなるでしょうか。世帯の数は1から2に増えて、世帯の年収の平均は500万円に下がるのです。子どもと親の所得に変化がなかったとしても、世帯数が増加し、世帯における稼ぎ手の数が減ると、1世帯あたりの所得は減るのです。
子どもが親から独立して、自分の世帯を築くということは、社会が豊かであるからこそできることです。実際に、日本の世帯数は増加し、1世帯あたりの人数も減少しています。1世帯あたりの所得が減ってきているということだけを見て、日本は貧しくなってきているとは結論付けられないのです。これは、大阪大学の大竹文雄さんが分かりやすく指摘しています。
さらに、格差の広がりは、人口の高齢化とも無関係ではありません。一般的には、所得の差は歳をとるごとに増えていきます。大学を卒業したばかりでは、友人とはそれほど大きな所得の差はないでしょう。しかし、10年、20年、30年と時間が経過していく中で、その人の能力や働いている会社や産業の状況によって、徐々に差が大きくなってくるものです。人口構成が少子高齢化するにつれて、格差が開いてくるのは当然とも言えるのです。
なぜ日本で貧困層が増えたのか
このように日本の格差拡大と低所得化は、複合的な要因が重なって起きています。しかし、それらを勘案したとしても、日本ではピケティが示したように高額所得者への富の集中が起こっているのではなく、低所得層のさらなる低所得化が進行しているのは間違いないようです。
たとえば、日本の相対的貧困率を年齢別に見ると、1985年から男女ともほぼ全ての年齢層で上昇しています。特に2000年代に入ってからは、若年層で顕著な上昇が見られます。
なぜ、貧困層が増えてきたのでしょうか。これは、非正規労働や派遣労働が増えてきたことが大きく関係していると言われています(非正規労働と派遣労働は、厳密には異なるものですが、一般的にはまとめられて議論されています)。
慶應義塾大学の石井加代子さんらは、非正規労働で貧困層が多くなっていることを指摘しています。彼女らの「日本家計パネル調査」を使った分析では、世帯主が非正規労働に就いている世帯が貧困世帯全体の54%を占めていたことが分かっています。
森口さんも、これまで標準的だった「男性が正規雇用として働き、女性が専業主婦」という世帯が成立する範囲が小さくなり、非正規の職業に就く人が多くなった結果として、低所得化が進んだと指摘しています。