「前代未聞の司法妨害で、執行猶予の道は閉ざされた」

裁判長は「収賄に限れば、執行猶予を選択する余地があった」と述べながらも、秋元議員が元顧問2人の買収行為に及んでいたことを断罪し、「前代未聞の司法妨害だ。ことここに至っては、執行猶予の道は閉ざされた」と実刑判決の理由を述べた。

判決が指摘するように秋元議員の罪は重い。国民の代表である国会議員として許されない。通常、1審判決で有罪を言い渡されると、国会議員はその職を辞職する。

たとえば、2019年夏の参院選で妻を当選させるために現金を配ったとして逮捕・起訴された元法相の河井克行氏(今年6月東京地裁で懲役3年の実刑判決、即日控訴)は、1審公判中に衆院議員を辞職している。

繰り返すが、秋元議員がIR汚職事件で最初に逮捕されたのは衆院3期目の2019年12月25日だった。この逮捕で自民党を離党しているが、衆院議員は辞職していない。

安倍政権下で、要職に就かせるなど自民党が前途を嘱望した政治家だ。離党したから「関係ない」では済まされない。党として秋元議員に国会議員を辞職するよう求めるのが筋である。そうでなければ、国民は納得しない。

「IR政策の転換に踏み切ることだ」と朝日社説

秋元議員に実刑判決が下った翌日の9月8日付で新聞各紙がこの判決を一斉に社説のテーマに取り上げている。

「カジノの是非 再考の時」との見出しを付けた朝日新聞の社説は、皮肉を込めて「証人買収罪は組織犯罪の取り締まりなどを目的に17年に新設されたもので、法案を提出した政府与党の一員だった秋元被告が最初の適用例となった」と指摘した後、こう主張する。

「職務を汚し司法の機能をゆがめることを狙った人物が、今も議員バッジをつけ、自民党も傍観している。一審とはいえ裁判所の判断が示された以上、党としても登用した責任を踏まえ、本人にけじめを求めるとともに、経緯を総括して国民に示すのが務めではないか」

所属していた党が秋元議員に辞職を勧告するのは当然のことである。そこに踏み切ろうとしない自民党は社会常識からも逸脱している。総裁選に夢中になる余り、政党としての責任を忘れてしまったのか。

さらに朝日社説は「IRは安倍前政権が『成長戦略の目玉』として推し進めたものだ。だが、国際会議場やホテルを併設し、外国人客に金を落としてもらおうという考えは、コロナ禍で説得力を著しく失った。先の横浜市長選で、菅首相がIRに反対する候補者の応援に回ったことは、構想の破綻を自ら認めたようなものだ」と自民党政権を批判し、次のように訴える。

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「予定では、来月から誘致をめざす自治体の申請受け付けが始まる。政府に求められるのは、状況の変化を直視し、政策の転換に踏み切ることだ」

しかながら、政府はすでに政策の軌道修正をしようと動いている。朝日社説は「構想の破綻」と言い切るが、IRの旗振り役を務めてきた菅首相がIR反対の小此木八郎氏を応援したこと自体が、横浜への誘致計画を白紙に戻すことにつながる。ただ、横浜市長選はいくつもの政治的思惑が交雑した選挙であり、概観すること自体が難しい。