危険水域の菅政権をなぜここまで支持するのか

コロナ対策に失敗して感染拡大を阻止できず、ワクチン接種も進まない中で、東京五輪開催を強行した菅首相に、国民の批判は高まるばかりだ。

各メディアの世論調査では、支持率が危険水域の30%を大きく割り込んでいる。菅が人気浮上の決め手と期待した東京五輪も、多くの世論から「失敗だった」と烙印らくいんを押されてしまった。

国民全員に行き渡るワクチンの確保も進まず、コロナ患者で病床は埋まり、全国で10万人以上といわれるコロナ中等症患者が入院できず自宅療養を強いられている。

これほど無能・無策な菅首相が再選されるはずは万に一つもない。長く続きすぎた“安倍政権ボケ”で正常な判断ができなくなっている自民党でも、それくらいの常識は持っているはずだと、私を含めた多くの国民が考えていた。

だが、菅首相はためらうことなく総裁選に出馬すると宣言し、二階幹事長はいち早く菅の再選支持を表明した。

いくら世の中の常識は永田町の非常識ではあっても、菅首相にはリーダーシップどころか正常な判断力さえ疑わしく、国民に現状を説明する言葉さえ持っていないことは明らかである。

早くも戦後最低という評価が定まりつつある菅首相の首に鈴をつける人間が、なぜ出てこないのか。

それは首相以上に権力を持つといわれる官房長官の権限とカネと情報があったからである。

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領収書なしで巨額のカネを使える「官房機密費」

戦後の歴代首相を見ても、官房長官を経験している者が多い。佐藤栄作、大平正芳、竹下登、小渕恵三、安倍晋三もそうだ。

官房長官は首相への“王道”なのだ。

それは、官房機密費という領収書なしで使える莫大な裏金を、自分の思い通りに差配できるからである。

機密費には政策推進費、調査情報対策費、活動関係経費があり、推進費に領収書は必要ない。機密費の使途を命じるのは首相だが、ほとんどは官房長官が決めているといっていいようだ。

機密費のことを公にしたのは、小渕内閣で官房長官を務めた野中広務である。

野中は2010年にテレビ番組や講演で官房機密費について、「(政治)評論をしておられる方々に、盆暮れにお届けするというのが(引き継ぎ帳に)額までみんな書いてありました」と証言したのだ。

「政治家から評論家になった人が、『家を新築したから3000万円、祝いをくれ』と小渕(恵三)総理に電話してきたこともあった」「持って行って断られたのは、田原総一朗さん1人」と語り、

「あんだけテレビで正義の先頭を切るようなことを言っている人が、こんなのを平気で受け取るのかなと思いましたね」

と、カネを受け取った政治評論家たちを批判した。

野中はいっていないが、彼は沖縄県知事選で官房機密費が投入された際の官房長官であり、そこに巨額なカネが流れたことは間違いないだろう。