病気を起こさないウイルスは研究されない
動物のウイルスが別の種の動物に感染したときには、多くのウイルスはあまり増殖できません。感染したとしても新しい宿主間で広がらずその個体の感染で終わります。ところが、ごくまれに別の種の動物に感染すると、ドンピシャの相性でよく増殖し、病気を引き起こすことがあるんです。こうしたものが新興ウイルス感染症となるのです。
「ウイルス(virus)」という言葉は、語源はラテン語で「病気や死をもたらす毒」という意味です。中国ではウイルスは「病毒」と表現されます。歴史的に見ても、病気を調べることでウイルスは発見されてきました。一般的に「ウイルスは病気を起こすもの」と考えられているため、ウイルス研究は病気との関係で行われているものばかりです。
しかし、人に病気を起こすSARSコロナウイルスもMERSコロナウイルスも、コウモリなどの元々の宿主の中では非病原性であり、病気を起こさないと思われます。ここが非常に重要な点です。
自然界には未知のウイルスが山のようにある
病気を起こすウイルスであれば、研究者たちは一生懸命に研究をします。逆に、人にも動物にも病気を起こさないものは、ほとんど研究されません。
前述しましたが、自然界には、動物を宿主としているときには何の病気も引き起こさないのに、人に感染すると恐ろしい病気を引き起こすウイルスがたくさん潜んでいる可能性があるにもかかわらず、そのほとんどはまったく研究されていないんです。
人の体から、血液を採取したり、便を採取したりして調べていくと、様々なウイルス由来の塩基配列が見つかります。これらは、病気を起こしていないものが多いですから、研究はされていません。動物の体の中にもたくさんのウイルスが潜んでいますが、非病原性であるため、ほとんど研究されていません。
つまり自然界には、まったく研究されていない未知のウイルスが山のようにあるということです。