自宅療養の場合にも、医療従事者がどうケアしてゆくのか、要員の問題はついて回ります。例えば、人工呼吸器の設定と管理はどうするのか、血中酸素濃度が異常値となったら自動的に治療もしくは入院ができる体制は取れるのか、それ以前に急速に容体が悪化する兆候を見逃さないために、医師や看護師をどう巡回させるのかといった問題は重要です。

医師や看護師については、ワクチン接種の要員確保が問題となっています。ですが、おそらく増加が予想される在宅療養者のモニター、巡回診療といった診療行為は、簡単な研修で有資格者を拡大できるようなものではありません。どう要員を充当するのか、具体的な計画の説明が必要です。

あくまでも通常診療は守るのか

3つ目は、通常診療への影響です。アメリカの場合は、感染爆発が起きてコロナ病床があふれた場合は、通常診療のためのICUを閉めてコロナ患者に回してきました。おそらく、それによってコロナ以外の患者で救命ができなかったケースもあると思われます。ですが、治療が遅れると、軽症から一気に容体が悪化して数日内に死亡する可能性のあるコロナ患者は、あくまで優先するというのが社会的な判断となっています。

日本はこの考え方を取っていません。今回の自宅療養によりベッドを確保するという方針は、コロナの重症者に向けてベッドを空けるためと説明されています。ですが、同時にあくまで通常診療を守り、民間の病院で対応不能なところにはコロナ患者を回さないという「現状」を維持するという判断も含まれています。

これは厚労省や医師会が漠然と変革を嫌っており、政治家はこれに流されているという説明で済ませてはいけないと思います。法律や制度の問題として、変えられないものは変えられないということであり、それでも変えるということならば、世論と政治が真剣な対話をしなくてはなりません。

中等症の自宅療養については、国会で批判されたことから、田村厚労相は「見直す」として方針撤回を匂わせています。仮に本当に見直しをして、感染爆発が悪化しても中等症患者を100%入院させるのであれば、今度こそ通常診療の現状維持を諦めることになります。それならば、問題を直視した真剣な議論が必要です。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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