中程度の肺炎を発症して酸素吸入が必要な患者を自宅療養させるという案を菅内閣が提案しています。目的はただ1つ、デルタ株を中心とした新型コロナウイルスの感染拡大が悪化した場合に、コロナ病床があふれて助かる命を助けることができない、つまり俗に言う医療崩壊を防止するためです。
ですが、仮に中等症から症状が憎悪(悪化)した場合に入院が遅れたり、在宅のために必要な薬剤投与ができない事例が発生して、救命できるはずの患者が死亡するようでは、医療崩壊の防止にはなりません。
政府もそんなことは分かっているのだと思いますが、日本の世論には重大な懸念が広がっています。ここは、リスクコミュニケーションの大きな分岐点だと思います。以下、3点について丁寧な説明を行う必要があると思います。
アメリカは医学生も投入
1つ目は、病床確保の問題です。2020年の1月、中国の湖北省武漢では突貫工事でコロナ専用病院を建設していました。今から思えば、あれは感染爆発による中等症治療のためのもので合理的な判断であったことが分かります。2020年の3月から4月には、アメリカのニューヨークでは、公園にテントを張ったり、軍の病院船を回航させたり、軍の工兵部隊が突貫工事で見本市会場を病床に改造したりしていました。これもコロナ病床確保のためでした。
こうした臨時の対策を日本政府は選択しませんでした。おそらく、病院の建設基準が厳格であるなど、法律や制度の問題として不可能だったのだと思います。仮にそうであれば、厳しい規制それ自体が人命を守るためであることを説明し、国民に理解を求めるべきだと思います。
2つ目は、医療従事者の確保の問題です。アメリカの場合は、感染拡大が厳しい状況になると、あらゆる専門の医師だけでなく、医科大学院の学生、外国の医師免許保有者まで現場に投入しました。また、余裕のある州から臨時に要員を融通することもしました。この8月に入った時点でも、最悪の状態に陥ったルイジアナ州には、連邦政府から災害対策の枠組みで医師33名が急派されています。