妻を亡くした88歳のSOS「話す相手が誰もいない」

ロンドンに住むトニー・ウィリアムズさんは88歳。数カ月前に愛妻ジョーさんをがんで亡くした。トニーさんは物理学者として長く大学で教えたが、ずっと前に引退した。子どもはいないが、兄弟はいる。しかし皆遠くに住んでいて、それぞれの生活がある。トニーさんには、耐え難い寂しさが襲ってきた。

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トニーさんは、孤独から抜け出さなくてはいけないと考えた。まずは、自宅の道路に向いた窓に一枚の大きなポスターを貼り出した。そこには、こう記した。

「私は、先日愛する妻でありソウルメイトだったジョーを失いました。私には家族も友人もいません。話す相手が誰もいないのです。私にとって、一日24時間家が静まり返っている状況は、まるで拷問のようで苦痛です。どなたか助けてくださいませんか」

さらに地元の新聞に同様の広告を出した。

それから数日がたった。反響は予想以上で、すっかり圧倒されてしまった。電話が鳴りやまず、食事をとる時間もないほどだった。夜も遅くまで話し込んだ。最初に電話をくれたのは、著名なテレビのパーソナリティーの女性だった。「彼女は私の話をよく聞いてくれました。思わず話し込み、20分があっという間でした。彼女は、また必ず電話を入れると約束してくれましたよ」。久しぶりに話をして楽しかったという。

国内外から届いた100本の電話と1000件のメール

電話とメールはその後も続いた。電話はおよそ100本に対応して、散歩に出た。帰ると30本ほどの留守番電話が入っていた。Eメールの数は1000を超えていて、アメリカ、カナダ、オーストラリア、スイスなどからも来た。多くの人が、トニーさんの孤独な状況がよく理解できるという。自分もまた配偶者などの愛する家族を失った経験があるが、その悲しみ、寂しさはたとえようもないと共感してくれた。

アメリカの女性は、住んでいるフロリダから電話をしてきた。そしてぜひアメリカに遊びにいらっしゃいと誘った。フロリダの空港まで迎えに行くので、我が家に好きなだけ泊まってほしいと具体的だ。アメリカを私の運転でご案内しましょう、という親切なお誘いだった。

その中でトニーさんが最も心を動かされたのは、コミュニティー内の小学校の先生からのメールだった。小学校は近所にあったので、トニーさんも承知していた。しかし、先生とのやり取りは初めてだった。先生は、クラスの子どもたちにトニーさん宛ての手紙を書かせたいと提案した。トニーさんは、大喜びで承諾した。そして、子どもたちの手紙を受け取った後は、ぜひ小学校を訪問したいと申し出たのだった。先生は快諾して、子どもたちの手紙を近くまとめて送りたいと言ってきた。トニーさんは手紙が届くのをワクワクして待っている。学校を訪問した際には、子どもたちに何の話をしようか、それを考えると自然に笑顔になる。