すべては次の選挙を見据えた「アリバイ作り」

また政府が頑なに「補償」という単語ではなくて「協力金」というワードを使いたがる(公的記述に残したがる)のも、「補償」には「責任に対する賠償」というニュアンスが含まれており、それは「政府が失敗責任を負った」という言質として受け取られかねないからだ。一方で「協力金」であれば「お願いを聞いてくれたお礼」というニュアンスを強調できる。馬鹿馬鹿しい些末なこだわりに見えるかもしれないが、しかし彼ら政治家は「言質を取られることを回避する」という点で徹底することが重要な資質のひとつなのである。

さらにいえば、「命令/私権制限」に踏み込まなければ、「民主主義的な手続きを放棄した独裁者」「民主主義の敵」などといった批判を受けることもない。今年の初秋に予定されている総選挙を目前にしたいま「政権転覆材料」となるようなリスクは可能なかぎりすべて排除・最小化しておきたい。だからこそ「お願いベース」は合理的なのである。

プロ野球や格闘技が有観客で開催されているなか、オリンピックを土壇場で無観客にしたのも「五輪に観客を動員したことで感染拡大を招いた」という政権批判材料が生じる可能性をあらかじめ潰しておくためだし、もはやほとんど意識されることもなくなった緊急事態宣言をオリンピック期間中にあえて発出しておくのも「私たちは最善を尽くした」という規制事実を作っておくためだ。

すべては五輪閉幕直後の解散総選挙をにらんだ「アリバイ作り」につながっている。

写真=iStock.com/ebico
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「自公以外に投票します」のツイッターデモ

飲食店業界もさすがに自民党の「スケープゴート」的なやり方に我慢の限界となってしまったためか「西村康稔大臣の議員辞職を求めます」「次の選挙では自公以外に投票します」というツイッターデモがこの業界を中心に発生し拡散している(余談だが、このムーブメントの火付け役自体は、堀江貴文氏の率いるオンラインサロンのメンバーを端緒にしているという)。

12日から東京都では4度目の緊急事態宣言が発効し、飲食店には営業時間短縮及び休業や酒類提供の原則停止が求められる。政府の無策ともいうべき状況に怒り心頭の飲食店に、決起を求める呼びかけが広がっている。
ネット上で拡散されているポスターがある。
「当店はしっかり感染防止対策をしています。不公平な『緊急事態宣言』には断固反対します。秋の総選挙では、自民党と公明党以外に投票します。お客様もご協力ください」。賛同する店はプリントアウトし、店先に掲示するようお願いされている。
きっかけは元日本マイクロソフト社長・成毛眞氏のSNSでの投稿だ。
「(政府は)もはやグダグダなのだから、秋の総選挙は都議選以上の波乱が起こるだろう。政党名を書く比例代表区で自民党は大崩れするのではなかろうか。それに乗じて東京の飲食店は統一ポスターを用意するべきだ」「飲食店は自分たちが激怒していることを効果的に表現しないとダメ」などと8日に呼びかけた。
東スポweb『“西村発言”に怒り心頭の飲食店が決起! ネットで拡散「自公以外に投票」ポスター』(2021年7月12日)より引用