前例のない手法を安易に用いてはならない
近年の国政選挙では与党側が圧勝する選挙区が多く、対抗馬の野党も不人気で無党派層が一斉に投票することがないため、態度未定層や非回答層を無視しても結果予想の大勢には影響がありませんでした。しかし、都民ファーストのような無党派や政治から遠い層から好まれる政党の票の予測には、多大な影響が出ると考えられます。
また、国政選挙の結果を左右する小選挙区に比べて、都議選の大半を占める中選挙区は得票率の差が小さいために当落線上の当落を外しやすいことも影響しているかもしれません。新しい手法での調査であったため前例がなく、予測式を用意するなどして適切な予測を行うことが難しかったのだと述べることもできます。
ただそうであれば、今回の調査結果を「情勢」と称して有権者に提供するのは控えるべきだったと思います。ネット調査導入という試み自体は評価したいところですが、信頼を失っては元も子もありません。
いずれにしても、今回の毎日新聞の都議選情勢報道の壊滅的な失敗は、新聞各紙の調査担当者や研究者が長年紡いできた情勢調査・報道の信頼性確保の歴史に対する冒涜であると筆者は判断します。
政治に近い一部の声を「世論」として報じる愚
告示直後調査の各党投票予定割合の数字は、支持政党を答えられるような政治関心の高い層が中心となって生み出しています。その裏で、政治に距離を感じている日本の多くの有権者が態度未定者となり、予想の材料から外れることが今回の「予想外」の背景と考えられます。
告示直後に投票先がすでに決まっている政治に近い人々の意向のみが表出された世論調査の数字を、選挙期間中に注釈なく発表するのは本来好ましくはありません。国政選挙の情勢報道が予測得票率を示さずに曖昧な表現を用いるのは、公選法で禁止されている「人気投票の公表」に該当するのを避けるとともに、予想に幅を持たせるためです。
世論調査の数字にはただでさえ誤差とバイアスが含まれるのですから、特に選挙期間中ではその取扱いに慎重になるべきです。これに対して都議選のメディア各社の調査結果の報道は、多くの人々がまだ悩んでいる最中の、一部の政治に近い人々の「世論」を出して、選挙結果に関する誤った予断を強いたものと言えます。これに乗じた評論家も同罪です。
有権者の政治離れを考える契機に
この問題は、告示から投票までたった10日間しか与えられていないという選挙期間の短さの問題とも関係しますが、今回は論じないでおきます。
計算上とはいえ、政治から遠い人々を無視した結果が「予想外」なのだとすれば、それは予想者に対する迷える有権者からの手痛いしっぺ返しと捉えられます。今回の結果が、自民勝利の「予想」を出して広めたメディアや自民党、政治評論家等に限らず、広く有権者の政治離れについて考える契機になればよいと思いますが、果たしてどうでしょうか。