投資が増えなければ「全員が平等に貧乏」になる

ただ、「どちらが卵で、どちらが鶏か?」の問題があるにせよ「貯蓄から投資へ」が進まなかったのには、明確な原因がある。

この30年間に限ればデフレが続き、投資より貯蓄のほうが有利だったからで、個人の行動は賢明だったともいえる。1990年末の株価は3万8915円と史上最高値だ。この時に株を購入していれば、現在の日経平均は2万8783円(7月1日終値)だから30%近くの損害発生だ。もちろん、2002年に大底値圏の8000円台で購入していれば大儲けだが、そううまくいくとは限らない。

「貯蓄から投資へ」を確実にするには、小さい政府にして民ができることは民に移し、規制を緩和して「強い日本経済」を作ることだ。

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国民が強い経済を確信すれば「株投資でリスクマネーの増加」→「ベンチャーへの投資が増えて有力ベンチャーの誕生」→「それを見て株式投資がさらに増える」、そんな好回転が始まる。

「個人マネー倍増」を喜べないもう一つの理由

「個人金融資産倍増」で私が危惧していることがある。この数字を理由に、「さらなる財政出動」を唱える人や国会議員が増える可能性がある点だ。

2013年、黒田日銀が異次元緩和を開始する前には「財政破綻」に対しての懸念が、世間にもマスコミにもそれなりに存在した。例えば2010年3月7日付けの朝日新聞1面には「悪夢『20XX年日本破綻』」(五郎丸健一記者)というタイトルのシミュレーション記事が載ったほどなのだ。

「20XX年。ある週末の夜、首相官邸の記者会見場は熱気に満ちていた。緊急会見に臨んだ首相が震える声で切り出した。(中略)だが、会見の途中から外国為替市場で円安ドル高が一気に加速。週開けの市場でも国債が投げ売りされ、長期金利は跳ね上がった。株価も過去最大の下落幅に。市場は『日本売り』一色となった。『お札が紙くずになる』『預金封鎖も近じかある』うわさがネットを飛び交い、現金を引き出そうと、銀行には長蛇の列ができた。貴金属店は、金塊や宝石を買い集める人でごった返した。輸入品などの物価が高騰。ガソリンは連日1リットル10円以上値上がりし、野菜や肉、魚も2倍以上の値段に。スーパーには『クレジットカードや電子マネーでの支払いはお断りします』との張り紙。人々は現金をかき集め、日用品の買い占めに走った。原料を輸入に頼るメーカーは経営難に陥り、工場の操業停止と従業員の解雇が相次いだ。銀行は国債暴落で巨額の損失を抱えた。混乱は金融システムに飛び火し、誰にも制御できなくなっていた。いずれこんな『破局のシナリオ』が現実になるかもしれない。(後略)」

ところが、2013年4月に日銀が異次元緩和を開始してからは、財政破綻懸念が、うそのように消えてしまった。政府・日銀が危機を先送りしたからだ。