メガネから来る不調で仕事を辞めた女性も

聞いているだけでつらくなるような相談もある。

「目の状態が本当にひどくて目が開けられない。毎日、めまいとか偏頭痛とか耳鳴りがします。年末くらいから症状がどんどん悪化して、ひどい時は1日寝込んで立ち上がれないような状態です。仕事も休職しないといけないほどになってしまって……」(40代女性)

写真=iStock.com/kitzcorner
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最後の女性はパソコンを使った事務の仕事をしていた。だが、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃から、目の不調がみるみる悪化し、仕事を休職するまでに追い込まれてしまったのだという。

また、撮影は遠慮してほしいと言われたものの、話だけならと、ある20代の女性は次のような話をしてくれた。

「専門学校を卒業して、映像を制作する会社に就職しました。画面が見えづらくなったのでメガネをかけ始めました。最初の頃は視力も1.5と快調でよく見えていたのですが、段々頭痛や吐き気がひどくなってきて……。

色々な病院を回って、脳のMRIをとっても『異常なし』と言われてしまい、仕事もやめて引きこもり状態に。もう死にたいと何度も思いました」

しかし、その話の最後に聞いたのは意外な言葉だった。

「それがいまでは、自分にぴったりのメガネをかけることで気持ちも前向きになり、再就職の面接まで受けられるようになりました。信じられません」

じつはこの女性は、梶田さんの診療所を受診した結果、「メガネがおかしい」と指摘されたのだそうだ。メガネの合う/合わないが、「人生を変える」と話していた梶田さん。その言葉は、決して誇張ではなかったのだ。

患者の約8割は「合わないメガネ」をかけている

梶田さんは「来院される方で、合わないメガネをかけている方は、全体の8割から9割に及びます」と言う。

梶田さんの診療所には目の不調を訴える患者が多いので、一般の割合より高くなっているのかもしれないが、それでも驚くべき数字だ。梶田さんが特に気をつける必要があると話すのは、度数の強すぎるメガネ=「過矯正」のメガネだ。

じつは過矯正が引き起こすのは、眼精疲労だけではない。過矯正のメガネが、近視を進行させるリスクを増大させてしまうことも明らかになってきているのだ。

度数的に「ちょうどよくつくるか」「やや弱めにつくるか」という問いに対しては、いまだに議論が続いているものの、「過矯正は避けるべき」との結論はすでに出ている。

とりわけ眼精疲労を引き起こすという観点からは、過矯正は避けるべきとされている。しかし、梶田さんを訪れるメガネが合っていない人のうち、およそ7割以上が、過矯正だという。なぜ多くの人は目に「よくない」とわかっている過矯正のメガネを選んでしまうのだろうか。