優勝賞金が1億6000万円の「国王杯」
国民の半数以上はサッカーの熱烈なファンなので、日本のサッカーファンとは比べられないほどの熱量があります。
さきほどもお伝えした通り、中東におけるサッカーは公式に定められてはいないものの、圧倒的な人気の高さを考えれば実質的には国技だと言えるでしょう。このことを示しているある大会があります。それが「国王杯」です。
この大会は1956年から1990年まで開催され、一度中断されたのちに2007年から「チャンピオンズクラブのための二聖都の守護者杯」というサウジアラビア国王の敬称に改められて再開しています。
トーナメント形式の大会になっていて、優勝賞金は日本円に換算すると約1億6000万円という破格の金額が設定されている国内最高峰の大会です(現在、大会の名称は「二聖都の守護者杯」に変更されています)。
多くのアラブ人に人気のサッカーですが、あまりにも人気がありすぎるためトラブルを引き起こすこともあります。それに起因する政治問題もあります。例えば、最近ようやく雪解けとなりましたが、カタールは2017年から他の湾岸アラブ諸国と国交断絶が続いていました。
このような政治的な緊張状態が続いているときにサッカーの試合が組まれると、実質的にサッカーを使った代理戦争のような状況になってしまうことがあります。近年でも、2019年の第17回AFCアジアカップで行われたカタール対アラブ首長国連邦(UAE)戦においてハプニングが起きました。
サッカーの試合はまさに代理戦争
この大会が行われた時点ではカタールとアラブ諸国との国交断絶は続いていたので、カタール国民は試合が行われたアラブ首長国連邦のスタジアムに入ることができませんでした。
さらに、観客席のチケットは現地のアラブ首長国側の王族によって買い占められており、ほぼアラブ首長国連邦のサポーターで埋め尽くされ、カタールにとっては完全にアウェーの試合になってしまったのです。ところが、試合結果は0対4でカタールの圧勝。
この結果に怒り狂ったアラブ首長国連邦サポーターは、スタジアムの中にペットボトルや靴を投げ入れたのです。この、相手に「靴を投げつける」という行為は、アラブにおいて極めて無礼な行為とされているので、よほどのことがなければこのような状況にはなりません。
セキュリティや職員が止めるのも何のその、大量の靴とペットボトルが試合会場を飛び交いました。結局、この事件が原因でアラブ首長国連邦はペナルティを課せられることになり、次回大会のホームゲームは無観客で行わなければならなくなりました。
このように中東におけるサッカーの試合というのは、国の威信をかけた一大イベントであり、国民を熱くさせる一種の代理戦争のようなものだと言っていいでしょう。