引退試合に7万人の観客を集めた“砂漠の英雄”

このアル・ヒラルを強豪チームに導いたのが、サーミー・アル=ジャービルという1988年から2007年まで活躍した伝説的な選手です。

引退試合では7万人が観客として集まり、アジアサッカー連盟において初代殿堂入りを果たしたほどの選手で、現地のサッカーファンからは“砂漠の英雄”と呼ばれています。

一方のアル・ナスルもアル・ヒラルより2年早い1955年に創設された老舗のクラブチームで、「サウジ・プロフェッショナルリーグ」で9度優勝し、数々の国際大会でも優勝している強豪チームです。

サウジアラビアの国旗が印刷されたサッカーボールがゴールを揺らす
写真=iStock.com/eyegelb
※写真はイメージです

こちらも“砂漠のペレ”と称されたマジェド・アブドゥラーという伝説的な選手が過去に在籍しており、サウジアラビア国内ではアル・ヒラルの次に人気のクラブチームです。

この2つの有名チームの関係性は、日本の野球で例えるなら読売ジャイアンツと阪神タイガースのような、いわゆる“宿敵同士”だと考えていただければわかりやすいかもしれません。

この2チームの試合はとても人気で、サウジアラビア・ナショナルチームの国際試合以上に盛り上がりを見せることがあるほどです。実はさきほど紹介したアル・ヒラルは、日本人サポーターが多いことで知られています。

日本人がアル・ヒラルのファンになる理由は様々なのですが、そのひとつに元・FC東京所属のチャン・ヒョンスという選手がいることが挙げられます。

彼は元・韓国代表のディフェンダーなのですが、彼を応援しているFC東京サポーターが宿敵である浦和レッズと戦うアル・ヒラルのサポーターになっているようです。そのアル・ヒラルですが、ありがたいことに日本でも現地でも何度かアル・ヒラルの選手に会わせていただき、その流れでアル・ヒラルチームの公式ムービーにも出させていただきました。

中東でサッカーにおいて一番有名な日本人の名前は…

ここまで読み進めていただいた読者ならもうおわかりだと思いますが、アラブでは様々なことが良くも悪くもノリで進んでいくのです。

このように、レベルの高い熾烈な争いをしているクラブチームがあるアラブではサッカー熱が高まっているので、アラブ人に対して気軽にサッカーの話題を振ることはあまりおすすめしません。

おそらくサウジアラビアにおいて、一番有名な日本人はサッカー審判の西村雄一さんでしょう。

2014年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝の第2試合で主審を務めたからです。サウジアラビアのアル・ヒラルは、すでに第1試合でオーストラリアのウェスタンシドニー・ワンダラーズに負けており、ACLで優勝するには勝利が絶対条件の試合でした。

しかし、ホームでの第2試合は0対0の引き分け。サウジアラビアの人たちの多くは、アル・ヒラルが優勝できなかったのは第2試合主審の西村雄一さんのせいだと思っていて、強く記憶に残っているからです。

日本でも「初対面で宗教と政治と野球の話はするな」という言葉がありますが、中東においては「雑談で政治とサッカーの話はするな」と言い換えられます。

もちろん、サッカーの話題を振って仲良くなれるパターンもありますが、それは言ってしまえば賭けのようなもので、仲良くなるか、嫌われるかの二択だと思っていただいてまず間違いはないと思います。

ちなみに私をモロッコまで呼んでくれた王子はアル・ナスルの大ファンで、アル・ヒラルの私とは敵対していると言えます。サウジアラビアの国内リーグでアル・ナスルが勝利した際には「ナスルが勝ったぞー」とわざわざ煽りメッセージが写真付きでたくさん送られてきます。