「シドニーやメルボルンと比べて、人や車が少なく暮らしやすいブリスベンで、五輪開催を契機に工事の増加や人口増で渋滞などが起きるのは困る」「2018年の英連邦競技大会時のように、実施のためにあちこちが封鎖されるなら生活に支障が出る」。国際大会が生活圏で行われてきたことで、混乱や規制の強化に抵抗があるようだ。
次の餌食は「札幌大会」か
NBCがIOCから買い上げた放送権の対象となる大会は前述の通りだが、その中にひとつだけ開催都市が決まっていない大会がある。それは、2030年の冬季大会だ。
この大会にどの都市が名乗りを上げているのか調べたところ、ピレネー山脈を舞台にしたスペイン・アンドラ・フランスの3カ国共催、カナダ・バンクーバー(2度目)のほか、札幌市も1972年以来2度目の催行を目指し招致活動を進めている。
2018年には町田隆敏副市長が、2020年1月には秋元克広市長がそれぞれバッハ会長と会っており、「札幌優位」とみる五輪関係者もいると、地元紙の北海道新聞が伝えている。
そこで、札幌の招致活動を取材していた旧知の記者に話を聞いてみた。
「札幌までの新幹線を早く作れ」と言い出す恐れ
「札幌冬季五輪の実現は、北海道新幹線の札幌延伸開通が前提のようです。開業予定は2030年度末なので、それだと五輪に間に合わない。秋元市長は『2029年中には開業していなければいけない』と前倒しの開業に意欲的ですが、観光需要が蒸発したJR北海道の経営難は深刻で、工期の短縮でさらなる赤字を抱えるのは必至です」
コロナ禍でも東京五輪の実施をゴリ押しするIOCに対して、多くの日本人は不信感を抱きつつある。一方で、冬季大会の誘致は世界的に不人気な状況にある。IOCが札幌を指名するとなれば、確実な催行のために「札幌までの新幹線を早く作れ」と言い出すかもしれない。
東京五輪から10年もたたないうちに、今度は札幌五輪のために採算性が疑問視される巨大交通インフラの建設を求められる恐れがある。日本は大会開催だけでなく、関連建設をも含めた、巨額の費用を再び押しつけられることになるのだろうか。そうした事態だけは何としても避けてほしいものだ。