友達をつくるのにも「能力」がいる

では、その良好な人間関係はどうやって構築できるのか。経済的な基盤(収入や資産があるか)や文化的なリソース(趣味や教養があるか)は、完全には無視できない要素ではありますが、最も大きいのはコミュニケーション能力といえるでしょう。コミュ力がなければ最低限の人間関係を営むことも困難だからです。よく「友達なんて自然にできるものだ」と話す人がいますが、その自然は後天的に得られたものであることに注意が必要です。

これは近年、社会学の分野で使われている「感情資本」という概念が参考になります。感情資本は、一言で言えば、自己の感情をうまくコントロールできる能力のことであり、他者とのコミュニケーションが発生する場面では、絶えず抑制や同調といった感情の調整が求められるものです。

これは、ちょっとしたあいさつから、相手の気持ちをくんだ根回しに至るまで、どこにでも付いて回ります。ビジネスにおいてもプライベートにおいても、それにけた人々がさまざまな恩恵を享受しています。

感情資本とは、文化資本のひとつである身体的資本として、感情管理の特定のスタイルを「自然に」身につけた人間が、より有利な社会的位置を「個人的に」獲得するかにみえるような事態を招くものである。(『希望の社会学 我々は何者か、我々はどこへ行くのか』山岸健・浜日出夫・草柳千早編、三和書籍)

婚活や就活における「好印象」の正体

それは、資産や身分とまったく同様に個人差があり、生育歴なども絡んでスタートラインに有利不利があります。要はその能力が備わっている人ほど、自分にとって最適な関係性を作ることや、「関係の質」を高めることが容易にできるからです。

婚活や就活が非常に分かりやすいでしょう。面談や面接において相手から「好印象の人物に見え」なければ選ばれることがありません。この「好印象」とは、通常要求されるコミュニケーションの作法や、感情の表出を含む自己表現といった所作をクリアしていることが暗黙の前提です。

よく新入社員が辞めたときに「あいつ微妙だった」とか「あの態度はない」といった決まり文句で語られることがありますが、これは「感情の働き」が重要な能力として指標化されていることの表れといえます。一昔前にブームになったEQ(心の知能指数)が典型ですが、アタマではなくココロの作動が焦点化されているのです。