「監禁されている」110番の原因はコロナにあった
そんなKさんの施設で入所者が「監禁されている」という110番通報をしたというのです。
「なぜ、こんなトラブルが起きたのか。頭に浮かんだのはやはりコロナ禍の影響です」
Kさんはその理由をこう語ります。
「通常ですと入所を検討する段階で、ご家族が施設の見学に来られます。体の状態にもよりますが、入所されるご本人同伴で来られることも少なくありません。居室やリハビリルームなどの見学はもとより職員が何人ぐらいいて、どんな食事が出るのか。リハビリも含めて1日のスケジュールはどうなっているのか、といったことを確認するわけです。そして、老健がどういう施設で何のために入所するのか、詳しい説明を受ける。ご家族もご本人もそれを聞いて納得したうえで入所されるのです」
「しかし、新型コロナウイルスの流行が深刻化した昨年の春以降、外部からの人の出入りが禁止されました。感染すれば重症化のおそれがある高齢者の施設。絶対にクラスターを起こしてはいけないですから」
「突然、見知らぬ場所に連れてこられた」と受け止める高齢者
その結果、入所の説明はパンフレットなどをもとに担当者と家族が面談するか、電話での打ち合わせによって済まされることが多くなったそうです。
「もちろんご家族も入所先に関する説明を高齢の父親や母親にしているはずです。でも、見学できていないですから、どんな施設かを詳しく語るのは難しい。そんな状態では、『突然、見知らぬ場所に連れてこられた』と受け止める方がいたとしても仕方がありません」
そして、いきなりリハビリを含めた施設での慣れない生活が始まるのです。
「加えて、ご家族が面会に来られないのも大きいと思います」とKさん。
「愛着のある自宅を離れることになる入所者の方にとって何よりの楽しみは家族との面会です。でも、感染防止のため、今は控えていただいています。その代わりにウチの施設でもリモート面会を行うようにしました。ご家族と連絡を取り、iPadを介して顔を見て会話していただくのです。ただ、高齢の方は新しい機器やテクノロジーに馴染みがないですよね。画面を通してでは会話をしてもピンとこないみたいなんですよ。目の前に家族がいて話をするのとは大違いで、気が晴れることはないようです」
家族と会えないことが孤立感につながり、その寂しさから冷静な判断ができなくなる。その結果、「監禁されていると思い込まれるのではないでしょうか」とKさんは推測します。