「ほめる」ジャーナリズムが必要だ

——お二人が新たに調査報道に関する賞を創設されたのは、どういった思いからでしょうか。

【船橋】公共の問題に対して、社会の側からの課題設定とそのための調査、検証が不十分だと思うからです。そして、独立した立場でそれらの課題に対する考えを深め、多様な視点を提供し、想像力のある提案をする論評が足りないと思うからです。それから、ただ政府を批判するのではなく、生活の現場の問題に対する調査報道から新しい政策提案につなげていく動きを大切にしたいとも思いました。「PEP(ペップ)」とは「Policy Entrepreneur's Platform(政策起業家プラットフォーム)」の頭文字です。

新型コロナ対策で行政のIT化の遅れが明らかになりましたが、いったいなぜそうなったのか。事実をしっかりと検証して、提案していく。そうした形の調査報道は今後、ますます必要になってくるのではないでしょうか。

新しい試みを社会に取り入れていく中では、失敗は避けられません。もしメディアがそれらの試みが失敗したというのでたたいてばかりいたら、みんなが萎縮してリスクを取らなくなってしまう。日本全体がリスクを回避し、問題を先送りにする社会になってしまわないためにも、ジャーナリズムにはもっと上手に「ほめる」ことも必要ではないか、という思いもありました。

澤康臣氏(本人提供)

【澤】ぼくらの賞の新設にも、「ジャーナリズムの世界じたいを『ほめて伸ばす』ようにしていこう」という思いがありました。たたくだけでリスクをとらないのは、減点法の社会、寒い社会になってしまうと思うんです。

メディアが人びとをほめるというより、まずジャーナリズム自体が向上していくために、いいニュースの伝え方、いい取材の進め方といったものを認めてもらえる場がほしい。いい仕事が顕彰される例示があると、新しいアイデアもどんどん出てきますから。

 

記者の頑張りをもっとオープンにする

【澤】今のメディアの世界の大きな問題として、お金がなくなってきたということがありますが、それ以上に「おまえたちは取材先に迷惑をかけている」という報道批判が強くなって、それが現場の萎縮を生んでいる印象があります。「この話にふれるのはやめておこう」といったチェックが細かく入るようになり、最近は個人情報保護もきびしくなって、それに拍車がかかっています。

書いて怒られることはあっても、ほめられることは少ない。そういう息苦しさは、現場の記者はみな感じているんじゃないでしょうか。

——個人情報保護法や報道被害の問題では、「いろいろ問題はあるにしても、やっぱり世の中には報道の自由があったほうがいい」という共通認識があれば、世の中の反応は変わっていたかもしれませんね。

【澤】それはぼくも、ひしひしと感じますね。一つには一般の人に報道現場の努力が知られていないということがあります。大学のジャーナリズムの授業でも、東京医大など医大入試の男女差別が問題となったことはみんな知っているのに、それがメディアの調査報道で明らかになったことだという事実は知らない。

もちろん我々ががんばっていい仕事をしていくことが第一ですが、ささやかながらいい仕事をしても知られないという状況を変えていくことも、すべき努力の一つでしょう。その意味でも賞を設け、現場のがんばりをオープンにしていくことが必要と考えました。