「母」の役割も主婦の地位を高めている

もうひとつ日本で主婦の地位が高い理由として、母の役割があります。日本では子どもがとても大事にされ、その世話をする母としての女性の役割が重要だと考えられています。しかしイギリスでは、夫婦が一体でそのつながりが強固な分、子どもは基本的には他人だと考えられています。日本では「兄弟は他人の始まり」といいますが、イギリスでは「子どもは他人の始まり」なのです。

私は長女をイギリスで産みましたが、両親学級では生まれた直後から子どもを別の部屋で寝かせるよう指導されました。また、1990年から3人の子どもを連れてイギリスに滞在した時気がついたのは、イギリスの子どもは15歳ぐらいになると、基本的には放っておかれる、つまり自分でやっていくことが求められるということです。これは子どもにとってかわいそうなことだと思われましたが、親の立場としては、「こんな風に放っておいても子どもは育つのだ!」と、肩の荷が軽くなるような気がしたものです。

このように日本では主婦の地位が高く、主婦がその役割に誇りさえ持っていることは、西洋との大きな違いだと思われます。1960年代のアメリカでは、主婦の虚しさを書いたベティ・フリーダンの本(The Feminine Mystique 邦題『新しい女性の創造』)の出版がフェミニズム運動のきっかけになりましたが、日本では、フェミニズムの主張に対して、しばしば主婦も立派な仕事であるという主張がなされ、不況になると専業主婦願望を持つ女性が増えるのです。それはこうした主婦の立場の違いを反映しているのでしょう。

平成初期から変化した「家族」のカタチ

しかし、専業主婦がいる家族は1980年代から減少に転じ、1990年代後半からは共働きの家族がその数を上回ります。『令和元年版 男女共同参画白書』によれば、2018年の調査では、共働き家庭が、専業主婦のいる家庭の2倍強の数となっています。また、性別分業について、男女とも反対の割合が賛成の割合を上回っています。そして2016年の調査では、子どもができても仕事を続ける方がよいと考える人も、男女とも半数を超えています。

写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです

問題は、このように男女の分業を超えようとする現状があるにもかかわらず、依然として「性別分業」を前提とする社会の構造が続いていることです。2019年のOECD(経済協力開発機構)の調査では、日本における男女の賃金格差はデータに示されている29カ国中2番目に大きく、女性の賃金は男性の75%弱に留まっています。このことが、独身女性、特にシングルマザーの貧困を生んでいるのです。