この話は新卒採用だけに留まらない。コロナ対策として在宅勤務をやり始めて、満員電車で通勤しなくてよくなったと喜んでいる人は、これから仕事を失うかもしれない。会社に出社しなくてもできる仕事というのは、大抵は能力とスキルのある人なら誰でもできる仕事だということだからだ。テレワークが普及すればするほど、誰にも負けないスキルがないか、実績を残しているのか、といった点がますます求められるのだ。
新卒採用の場面でも、「自分はこれができます」という売り込みがさらに必要になってくる。しかし、日本の大学はすぐに使える実用的な知識を教えていないから、大卒人材は「使えない人材」だと評価され、採用を見送られ始めるだろう。もっと言えば、大卒よりも、高専や専門学校で使えるスキルを身に付けた人のほうが、企業から声がかかりやすくなっていくだろう。
大前研一が実践した、人材インキュベート法
最新の新卒採用に関するデータを見ると、東大・京大の就活人気ランキング上位には、マッキンゼーやボストン・アンド・コンサルティングなどのコンサルティング・ファームが並んでいる。コンサル人気をこれほどまでに高めた人物は何を隠そう、この私である。
私がマッキンゼーにいた当初は、マッキンゼーは無名の会社だった。英語で社名を書くと「McKinsey & Company, Inc.」になるから、「インクだから印刷会社ですか?」と言われたことも冗談ではなく実際にあった。
そんな中、マッキンゼーはもともと中途採用しか募集していなかったが、新卒採用を始めることにした。マッキンゼーを背負っていた私としては、東大や京大といった一流大学の人材がほしい。だから、春休みに大学に行って「1日1万円」とアルバイト募集をかけた。そうすると、春休みの2週間に目いっぱい稼ごうという学生がわんさか集まってきた。
学生たちにはコンサルタントの問題解決の手法を教えて、プロジェクトをやらせてみる。レポートを書かせて、2週間後に私たちの前で発表させる。優秀な学生はすぐに優秀だとわかるから、即採用と決めて囲い込んだわけだ。そうしているうちに、私がマッキンゼーを辞めるころには、画期的なことに、東大法学部の就職人気ランキングの8位まで上がった。
このように私が在任期間中に540人くらい採用をしたが、採用したコンサルタントは次々に多くの分野で活躍していった。DeNA創業者の南場智子、今や時価総額上位にランクインするエムスリーの谷村格など、多くの起業家が育っていった。