東京で無理するくらいなら地方で働いたほうがいい

【田原】なるほど。冨山さんのバス会社がうまくいっている理由だけでなく、東京の人材が活躍している実情もよくわかった。僕はこういうことをまったく知らなかったけど、東京でダメになった人たちでも実は地方では活躍できる可能性を秘めているんだろうか。

【冨山】東京の不幸は、世界的な都市であるがためにグローバルな極めて厳しい競争になってしまったことです。中途半端な人って役に立たないと言われるようになって、グローバル産業=大企業の中では低い扱いを受けてしまう。

腕一本で技能を磨くプロフェッショナルになるか、海外の大学で修士号や博士号を取ってくるとか、大規模プロジェクトを手がけて出世するという話になってしまっていますね。正直、みんながみんな熾烈しれつな競争に生きて、勝ち抜けということになっていると。世界が相手ですから、世界ランキングで上位にいける人材でないと戦えず、対価を得られない。

こうしたグローバルな出世競争を多くの人に求めるのは無理な話です。競争が好きな人はそれでいいですが、ほどほどに充実した仕事をして、ちゃんと生活したいというニーズを満たせずに会社にしがみついている人が山ほどいるわけです。こうした人材が仮に地方に行ったとしましょう。本人がつまらないプライドを捨て、謙虚に本気で頑張れば、もうピカピカの素晴らしい人たちだと受け止められますよ。

「地方移住=のんびり田舎暮らし」ではない

【田原】具体的に東京の人間が地方へどのくらい動けば変わるんだろうか。

冨山和彦、田原総一朗『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(角川新書)

【冨山】あくまでも私の感覚でしかありませんが、東京で働き盛りの30代から40代の半分くらいが地方に行ったほうが活躍できると思います。もし、仮に東京の人口のうち若者も含めて200万から300万人が活躍の場を求めて地方に移住すれば、確実に日本の風景は変わるでしょう。

働き盛り世代のうち何割かは経営や管理部門を任せられる人材として、現場で頼れる働き手になっていくであろう若者たちを支える存在になります。それが地方の未来につながるんですね。

【田原】それは面白い。僕が冨山さんの話で感心したのは、地方創生をするためには、産業を作らないといけないというのは違う、まず都市を再開発して、人口が増えればいいんだと。人が流れるようにすればいいんだと。そして、生まれた仕事に人を斡旋すればいいという発想。これは目からウロコで、間違いなく新しい日本の地方創生につながる。

【冨山】私が問題だと思うのは、「地方移住」の話をすると東京で疲れた人たちが、のんびり暮らすために、というイメージが先行することです。別に田舎暮らしを否定しようという気はありません。ただ、地方移住という議論がいつの間にか都市での生活を捨てることと直結させられていることで、視野が狭くなってしまっています。

東京や大企業ではくすぶっていたとしても、地方都市では活躍できる人たちはたくさんいるし、違う場所でもっと自分の力を発揮したいと思っている人はごまんといるわけです。その人たちのニーズに応こたえるステージが用意できるかどうかが大事なんです。

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