「女性は男性に比べて能力が低い」という思い込み

ジェンダーの問題には、長年の間に培われた固定観念が強く関わってきます。これは時代が変わったからといって簡単には変えられないため、意識が現状に追いつかないこともしばしばです。そうした状態を打破するには、どうするべきなのでしょうか。

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まず、従来の女性採用にはどんな固定観念が関わっていたのかを考えていきたいと思います。これまで、女性採用において行われてきたのは「統計的差別」です。典型的な例として、女性社員は1人前に育てても結婚や出産で離職する確率が統計的に高いため、初めから総合職としては採用しないというものがあります。

この前提は、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業が主流だった時代には確かに事実でしたが、今は違います。特に2010年以降は、産休・育休制度が確立して出産後も働き続ける女性が増え、統計的差別は偏見に基づく非合理的な差別になってきています。なのに、「女性は辞める」という思い込みを引きずっている人はいまだに一定数いるのです。

さらに、「女性は男性に比べて能力が低い」と思い込んでいる人もいます。こうしたジェンダーバイアスは、今の時代は完全な差別とされるため、表立って口にする人はあまりいないかもしれません。しかし、口には出さなくとも心で思っている人は、やはり一定数存在しています。

クオーター制の意義はどこにあるか

「女性は辞める」という思い込みは時代にそぐわないものであり、「女性は男性に比べて能力が低い」という思い込みに至っては事実に基づかないただの偏見です。それでも、ジェンダー問題に興味のない人や、自分に偏見があると気づいていない人は、そもそもそれを正す必要性を感じていません。

「性別問わず能力で採用すべき」という人には、こうした固定観念を維持している人が一定数いるということを、まず知っていただきたいと思います。

たとえば、上述のような偏見をもった人たちが人事担当者だったらどうなるか、想像してみてください。

もちろん、ベストなのは性別ではなく個々の能力を見て採用することです。でも、そこに固定観念が関わってくる可能性がある限り、男社会という現状を打破するには「女性半数」を制度化するしかありません。クオーター制導入の意義はそこにあると思います。

この固定観念が解消されないままだと、どんな問題が起きるのでしょうか。長年、日本の大企業はおおむね男性は総合職として、女性は一般職として採用してきました。前述のように、女性は結婚・出産で退職するものという前提で動いていたからです。

その結果、女性はキャリアの継続が難しくなり、賃金も男性に比べて上がりにくいという状況が生まれました。これは、結婚しない人が増えている現代社会では大問題です。