次の出番、メルケル首相は「感染症対策」だったが…

そして、この傾向は、その後のメルケル首相の講演ではさらに顕著になった。

彼女はまず、多国間主義、つまり国際協力の重要さを説き、まさにそれを必要としているのが現在の感染症対策であるとした。ただ、驚いたのは次の言葉だ。

「多国間主義の精神は、今年は2年前よりもずっとずっと向上した(メルケル首相は2年前に同会議に出席)。それはジョー・バイデンが米国の大統領になったことと非常に大きく関係している」

トランプ前米国大統領へのあからさまな侮辱だ。

メルケル首相の主要テーマは感染症対策で、環境保護、テロ対策、SDGs(持続可能な開発目標)、アフガニスタン和平、アフリカとシリアへの援助など、ドイツが世界中で行っている活動を挙げた後、話は再び新型コロナウイルス感染症に戻る。

地球上の全員が平等にワクチン接種を受けられるよう、ドイツはCOVAX(WHO主導のグローバルなワクチン普及計画)への18億ドルと合わせ、合計25億ドルを拠出する計画であるという。この日の午前中に開かれたG7首脳会議では、12億ドルの追加拠出も約束している。

なお、ロシアについては、ウクライナ問題が硬直してしまっていることを挙げ、欧米が共同で立ち向かうことが非常に重要であるとした。

力強いわりには拍子抜けする内容

また、「もう一つの、そして、おそらくより複雑なのが、中国に対しての共同作戦の策定」であるとのこと。何故なら、「中国は一方ではわれわれの(政治)体制のライバルであるが、他方では、グローバルな問題の解決において協力し合わなければならない国」だから。

さらには、「中国はここ数年、強い勢力となった。これに対して、われわれは環大西洋同盟として、また民主主義国家として、行動により対峙しなければならない」と力強い言葉が口をつく。

ところが、次に続いたメルケル首相の言葉は拍子抜けだった。

「だから、例えば、発展途上国におけるワクチンの配布で……」

要するに、現在、世界中にワクチンを配っている中国やロシアに負けないよう、G7も世界中の人々がワクチンの接種を受けられるよう行動しなくてはならないという。中国には民主主義国家として対峙すると続けるかと思いきや、上手に感染症防止対策やワクチン配布にすり替えられてしまった。

もちろん、中国の人権侵害の話などは一切出てこなかった。