かつての電通はもはや消滅しつつある
だが一連のリストラが終了し、組織のスリム化と低コスト化に成功した後は、仮に成長路線に復帰できたとしても、かつての電通の姿ではなく、単なる大手広告代理店の1社に過ぎなくなる。
圧倒的なシェアを生かし、メディアと広告主の両方に影響力を行使したり、オリンピックに代表されるような政治力を生かしたビジネスを自由に展開するという事業モデルは成立しにくくなるだろう。
結局のところ、かつての電通のビジネスモデルは、銀行業界や通信業界と同様、昭和という時代がもたらした構造的なものといってよい。邦銀は旧大蔵省(現財務省)を頂点とした護送船団方式と呼ばれ、半ば独占的に企業の資金調達を取り仕切ってきた。
通信業界もいまでこそ、複数の企業が料金プランを競い合う状況だが、かつては旧電電公社が通信事業を独占し、価格は一方的に決定されていた。
社会や経済のグローバル化やIT化が進むと市場はオープンになり、国家権力を背景とした独占あるいは寡占構造は徐々に崩壊していく。電通もまさに同じ文脈で捉えることができる企業であり、今後は純粋に民間企業としての収益力が問われることになる。
同社にとって最悪のシナリオとは、今回の業績悪化でもオリンピックの中止でもなく、急ピッチで進むデジタル化の流れに取り残されることであり、それを回避できるかどうかは、同社の中長期的な経営戦略にかかっている。