見かけほど悪化していない電通の業績

確かに今期の赤字は過去最大であり、電通にはかつてない逆風が吹いているが、同社の業績は見かけほど悪くない。

コロナ危機による広告出稿の低下を受けて売上高は減ったが、同時に人件費の削減も進めており、海外を中心に6000人を削減する計画だ。また、過去に高い価格で買収した海外事業について再評価を行っており、事業価値が毀損した分については減損として費用に計上している。

同社は国内広告市場の縮小が予想されることから、過去10年間にわたってひたすら海外事業を強化してきた。2013年には英国の広告大手イージスを4000億円で買収するなど、事業のグローバル化を進めている。グループ全体に占める国内売上高の比率は42%となっており、北米が26%、欧州が22%、アジアが10%と、すでに収益の半分以上を海外部門が稼ぎ出している。

今期決算で計上された損失の多くが、リストラなど構造改革費用と資産価値見直しによる減損である。特に減損については見かけ上の損失であり、同額のキャッシュが流出したわけではない。一連の費用を除外すると同社の営業利益は1239億円の黒字なので、本業そのものは何とか利益を出している。

経営の見通しは立っているが…

つまり、一連の巨額赤字は、過去のM&A(合併・買収)における投資金額の見極めが甘く、会計上の「のれん(買収先企業の純資産額と買収金額の差額)」が過大だったことが要因であり、同社の事業が根本的に揺ぐほどの状況とは言えない。

今回の赤字転落を受けて、財務体質を強化するため本社ビルの売却を決定しており、売却金額は3000億円にもなると言われる。売却後も引き続きビルを使用する予定だが、コロナ危機をきっかけにテレワーク化が進んでおり、実質的な出社率は2割程度とされる。

売却後に従来と同じスペースを確保する必要はないので、この部分については大きなコスト削減要因となるだろう。今期(2021年12月期)についても560億円の構造改革費用を計上する予定となっており、2022年以降についても700~800億円程度のコスト削減効果を見込んでいる。

一連の状況から総合的に判断すると、同社が厳しい状況にあるのは間違いないが、一方でコスト削減も進んでおり、リストラとバランスシート調整が一段落すれば、収益は徐々に改善すると予想される。

しかしながら、それはかつての電通の復活を意味することにはならないと筆者は見ている。その理由は、コロナ危機をきっかけに電通を取り巻く市場環境がさらに変化する可能性が高まっているからである。