確かに、米国の実質10年金利に目をやると、歴史的な低水準(▲1%前後)をつけた昨年8月からほとんど動いていないことが分かる(図表4)。

今年に入ってから米10年金利やインフレ期待(具体的には10年物ブレークイーブンインフレ率、以下10年物BEI)の上昇傾向は報じられているが、両者の動きはおおむね並行しているため、その差である実質10年金利は過去最低水準から動いてこなかったのである。それゆえに株価が崩れる道理もなかった(と多くの市場参加者は整理している)。

だが、本稿執筆時点で米10年金利はいよいよ1年ぶりの1.3%に到達し、これに合わせて実質10年金利も▲1.0%を割り込み始めた。実質10年金利に動意が見られ始めたのは昨年夏以来、半年ぶりである。

ここからイスラエルにおける新規感染者数の根絶を確認し、米国でも同様の展開を期待する流れが強まるのだとすると、遂に「実質金利の上昇」という株式市場が最も恐れていたテーマが現実化する可能性が出てくる。

イスラエルリスクに持続力なし

もっとも、イスラエルリスクは実現しても、持続力はさほどないと筆者は考えている。「株を買いたい」と思っている向きには押し目を提供してくれるイベントくらいに割り切った方が良いのかもしれない。というのも、ワクチン流通を受けた「経済活動の正常化」と「マクロ経済政策(財政・金融政策)の正常化」の間には大きな距離があるからだ。

確かに、給付金に類する手厚い措置は順次撤収されてくるだろう。米国でも失業保険の上乗せ給付が就労意欲を毀損きそんしており、景気回復に応じた労働市場への復帰を阻害しているとの論調も出始めている。こうした「財政政策の正常化」は2021年中に少しずつだが着手される可能性がある。

とはいえ、株式市場を筆頭に金融市場が注目するのはあくまで「金融政策の正常化」だ。これは口にすることすら難しい状況が年内は続くと考える。上述したように、イスラエルリスクの顕現化とともに実質金利が上昇し、株価が大幅な調整を強いられる可能性はあるが、そもそもそういう動きをFRBが容認するとは思えない。

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依然として雇用・賃金情勢が壊滅している米国において株高を通じた資産効果は個人消費を引っ張ってくれる立派な景気対策となる(米国の家計金融資産の30%以上は株式で構成される)。

表立って金融政策と株価の関係性を口にすることはしないが、雇用・賃金・物価の当面の状況に大きな期待を持てないことが目に見えている以上、「株価は上がっておいてもらわないと困る」というのがFRBの本音に近いと察する。