生活保護に申請も「これまで何をしてきたのですか?」と返され自殺

——「うつ病」は「心の風邪」ともいわれ誰がかかってもおかしくないと言われています。

【鹿目医師】そうですね。一般にうつ病は女性の15~25%、男性の10%がり患すると言われています。うつ病は自分でも気が付かないうちにり患している可能性がある病です。

このように、うつ病は誰でもがかかる可能性がある、同時に自殺率(15%)が高い疾患でもあります。思い悩んでいる、気分が塞ぎ込みがち……という状況であれば、躊躇なく医療機関を頼ってください。

——早期に治療したほうが効果的ということでしょうか。

【鹿目医師】はい、早期に医療機関に相談したほうがよりよいです。うつ病は治療可能な病気です。十分に治る可能性があるものなのです。実際、治る可能性が高い病なのですから「治療して、また元気になりましょうよ!」って強く訴えたいですね。

——私が取材したコロナ禍でのケースでは、このような事例がありました。

(1)50代前半 男性 職業=非正規社員

雇用解雇を受け、役所へ生活保護の申請に行くも「これまで何をしてきたのですか?」という質問を受ける。これを「自業自得」「人生への計画性のなさ」を指摘されたと思い込み、「自分は助けを呼ぶことすら許されない人間である」と人生を悲観しての自殺企図となった。

上司に「辞めてくれ」と言われ、鬱に。失業保険金もらう前に自殺

(2)30代後半 女性 職業=正規社員
鹿目将至「1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ」(双葉社/鳥居りんこ 取材・文)。

コロナ禍で勤務先の経営状況が悪化。上司から「申し訳ないが、辞めてくれないか」と言われ、自己都合での退職を受け入れる。その後、うつ病を発症。失業手当を申請したが、手続きがスムーズにいかず、その間、貯金を切り崩す生活。貯金が減るに従い、次第に精神的に追い詰められ、失業保険金が振り込まれる直前での自殺企図となった。

——先生はコロナ禍での自殺の理由は何が多いと感じていますか。

【鹿目医師】もちろん様々な要因が複雑に絡み合ってはいるのですが、挙げていただいた事例は顕著なものです。直接の原因として最も多いのが、コロナ禍における経済的問題が患者さんの精神面に影響したものだと考えます。

コロナ前と違うことは、元来、精神的に比較的に強かった人(精神科とは無縁だった人)であっても、自殺問題を抱えてしまうほど状況は切迫していると言えます。

——先ほど、うつ状態の時は「視野狭窄」になっていると説明いただきました。コロナ禍において「視野狭窄」が「追い詰められ感」を増大させてしまう理由は何でしょうか。

【鹿目医師】大きく3つ理由が考えられます。まず、コロナ問題のネガティブな話題が連日、長期にわたって報道され続けていることで、潜在的な恐怖や不安を感じてしまうこと。2つめは、自分の周りでも、り患した人が出たり、その当人に対する心ない言葉を耳にしたりして、自分や家族の身に迫る危機感が増長すること。3つめは、失業や廃業、減収による経済的ダメージが深刻であるという背景があります。それで、結果として、社会全体の空気に引きずられやすくなり、たとえ軽微な問題であったとしても深刻に考えやすくなっているのだと思われます。