ウイルスより大きなものと闘わなければならない
即時の成果、不安定な生活、利己主義が世の中の規範になった現在、われわれは未来に備え、利他主義の精神に準じて将来世代にも資する「ポジティブな社会」を構築する必要がある。「ポジティブな社会」では、先ほど詳述した「命の経済」と「闘う民主主義」が両輪となる。「闘う民主主義」が掲げる5つの原則を記す。
1.代議制であること─国の社会層全体を反映する代表者の選択。
2.国民全員の命を守ること─「命の経済」への移行。
3.謙虚であること─国民全員で情報を共有し、表現の自由を保障し、批判的な思考を養い、自由に議論できる環境を整え、自分とは異なる意見にも耳を傾ける態度をもつ。
4.公平であること─所得再分配の強化、社会的格差の是正、男女平等、機会均等など。
5.将来世代の利益を民主的に考慮すること─判断を下す際は、選挙権をもたないまだこの世に存在しない世代の利益を考慮しながら熟議する。
今回のパンデミックによって、自宅に閉じ込められるようなことがあっても精神的に閉じ込められるようなことがあってはならない。自由闊達な精神を養いながら「命の経済」と「闘う民主主義」を両輪に社会を再構築すれば、今後、新たな地球規模の危機に遭遇しても、われわれは明るい未来を築くことができるはずだ。
※本稿は、ジャック・アタリ氏との長年にわたるメールのやりとり、2020年10月に緊急出版された『命の経済―パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社刊)、9月28日に行われた一般社団法人建設プロジェクト運営方式協議会らが主催したオンライン国際シンポジウムでの基調講演を基に再編集した。