「まあまあ良くて、まあまあ安い」が一番ダメ

結局、久美子氏が目指したのが、「ニトリよりは高いが、これまでの大塚家具よりは安い」という非常に中途半端なポジションであった。

写真=iStock.com/vadimguzhva
※写真はイメージです

このような「真ん中です」のような立ち位置のビジネスで成功することはほとんどない。消費財を扱うビジネスにおいて、顧客に感じさせるバリューのポジションは、原則、「一番安くて、まあまあ良い」か「まあまあの値段だが、一番良い」の2種類しかないのである。

これまで、大塚家具は、カッシーナのような超高級家具は別にして、いわゆる汎用家具のマーケットの中で「一番良い」位置にいた。実際に一番良いかは別として、とりあえずそういうことになっていたのである。

そしてニトリが「一番安い」のポジションを取った。その状況の中で大塚家具が勝手に「安い」側に降り、「一番良いは誰かどうぞやってください」としてしまったわけである。しかし、「一番安い」という部分では圧倒的にニトリの方が「安い家具を作って売る」という部分で合理化されているため、同じ戦略で戦ったところで、家具を安く作る能力においては全く勝ち目がなかったのである。

損をしても顧客満足度が下がるわけではない

ビジネス本にはよく「相手に得をさせれば自分も得をする」という記述がある。これはもちろん真実の側面もあるが、一方でやや綺麗事に過ぎるようにも思う。

というのは、営業の局面を想定すると、同じ商品、例えば新築一戸建てを6000万円で売るか7000万円で売るかによって、差額1000万円が会社側の利益になるか顧客側の利益になるかはゼロサムゲームだからである。

つまり、個別の営業局面を想定した場合、当然ながら、なるべく相手に非合理な意思決定をさせ、会社がたくさん儲かるようにしたほうが有利なわけである。特に、取引の一回性が強いビジネスでは、リピートが想定されていないため、1人の顧客からなるべく多くの利益を搾り取るという方向性でビジネスを展開したほうが有利である。

また、非合理な意思決定をしたからといって、顧客の満足度が下がるかというと実はそうでもない。家であれば、家を買う理由や、あるいは、営業マンが信頼できそうかどうか、といった定性的なファクターのほうが顧客の満足度に対する寄与度が高いと考えられる。